LEJENS  レジェンス

 Epsisoed T ネクストノイド

 作者  飛葉 凌 (RYO HIBA)


 神々の鎧 Part1

 遂に、B,P奪取計画・・・いや アポリスの日本国内拠点基地 占領計画の第1幕が切って落とされた。
Xデー決行日である。
まず先立って第2班の陽動部隊が、首都Tに向かった。 この役をピエールが、自ら買って出ていた。
"エサは大きいほうが良いでしょう・・・"
永井は、ボディガードとして、信頼の置ける部下を10人つけた。 特殊部隊、SP(シークレット・サービス)出身の凄腕である。
総勢30人の小規模編成であった。
その中には、みなっちを含む 女性事務員が、3人同行する事となった。
複数のダミー会社を通じての食料、医薬品などの補給品関係の事務的仕事であった。
本格戦線を前に、各種必要な物資の在庫の積み増しを計る補給計画である。
Xデー決行日が、決まるまでの間に、何度か行われ 全て成功していた。
当初の計画では、これが、最後の補給となる予定であった。
積荷をダミー会社所有の大型タンカーに運び、そこからUFOを利用して、聖なる場所へ運搬する。
大型タンカーへの荷物の運び入れの各種事務処理を担当する役目であった。
例の孤島大爆発による行方不明者リストに載る みなっちであったが、"変装して正体をバレないようにするから大丈夫・・・" と言って、はしゃいでいた。
コスプレを1度してみたい気持ちもあったが、久し振りに、地上に行きたかった。 ここ聖なる場所の暮らしにも慣れ 少し退屈していたのも事実である。
ここ聖なる場所は、対アポリスの為の地底にある最重要本部基地 つまり軍事拠点基地であり 地上と違って娯楽施設が少なかった。 元々今から約1万2000年以上前 エルと呼ばれたEBE's(イーバーズ=地球圏外知的生命体)が、目的は、今だに不明だが、建設途中で、突如放棄した場所を発見し、拠点軍事基地と利用している。
ここに住む住人も 質実剛健の軍人出身者、素朴な旧島民や、大半を占めるC宗教関係者は、質素倹約の素朴な清教徒的純朴な暮らしを営む者が多くいた。
早い話が、刺激が少なく飽きていた。
それに、凄腕のボディガードが付き 余り危険の伴わない任務だと思われていた。
補給計画そのものは、慎重に慎重を重ねてきた結果でもあったが、1度もアポリスによる妨害工作を受けていない。
数日前 浩司を呼んで、変装用の衣装を見せたのだが、シスター(修道女)スタイルに、顔を変える為の特殊メイクを施していた。
「ねえ・ねえ・ねえ・ かわいいでしょう・・・」 うかれてはしゃいでいた。
元々かなりの童顔である。 実年齢に近い感じをだそうと、専門のメークアーチストが、特殊メイクを施した 顔の雰囲気は、かなり違い、別人とも思わせるイメージであったが、見た目は、実年齢に近づけようとしたのが、逆に童顔が、際立ってしまう有様である。
"シスター(修道女)より コギャルで行った方が、かえって目立たなくて、いいんじゃないの・・・" ふっと浩司は思った。
もし口に出したら 間違いなく血の雨が降ったであろう・・・ "マジです・・・恐〜い" (浩司談) "間違いなく降る" (みなっち談)
第1班及び浩司を含む第3班は、聖なる場所で、ピエールの動きに合わせて待機である。
ピエールが、アポリスの目を引き付けている間に、奇襲攻撃をかける作戦であった。

 その頃 ギルもまた別の作戦を立て、動いていた。
その作戦の為 ギル本来の担当地域 中東から、1人モンゴロイドの女性を呼び寄せた。
年齢は、40歳代前半 身長は、約160cm かなり細身の身体 腰よりも長く伸ばした長い髪にゆるやかなウェーブをかけ茶髪に染めていた。
頭の額に 赤のネクスタルが無い。 間違いなくホモサピエンス・サピエンスである。
アポリスと言えども まだ全員が、ネクストノイドではない。
大半が、ネクストノイドへの改造待ちを含む ホモサピエンス・サピエンスであった。
女性の名前は麻子 日本人であったが、アポリス内・・・ いや全世界でも、超1流のトップクラスのスパイの1人でもあった。
自称 歴史上最も妖艶なマタ・ハリ(マタ・ハリとは、西暦1900年前後 パリに実在したダンサーで、女スパイの芸名 実績は、???であったが、その後 女007(ダブルオーセブン)もしくは、女スパイの代名詞となる)
マタ・ハリ (Mata Hari、1876年8月7日生まれ- 1917年10月15日死去(処刑))は、パリを中心に活躍したマレー系オランダ人の踊り子(ダンサー)で、高級娼婦。 第1次世界大戦中にスパイ容疑で逮捕され、有罪判決を受けて処刑された。 マタ・ハリはダンサーとしての芸名であり、本名はマルガレータ・ヘールトロイダ・ツェレ(Margaretha Geertruida Zelle)。世界で最も有名な女スパイとなったマタ・ハリの名は、女スパイの代名詞となった。 実際はマタ・ハリはおそらく、フランス軍およびドイツ軍にとって非常に低級レベルでの諜報要員だったのは確かだが、彼女が独仏どちらの陣営に対しても、意味のある情報をもたらした証拠は何一つない。 各国の運命がマタ・ハリに委ねられていた、などとするのは伝説に過ぎない。)
決して美人とは言えなかったが、マタ・ハリ(女スパイ)としてのキャリア・・・ そして何よりも洗練された本物の大人の女だけが身に着ける事の出来る、年齢と共に熟成され、成熟した独特の芳醇で、妖艶、妖魔的、どこかミステリアスな色香を漂わせていた。
つまり美人ではないが、洗練された魅惑と、どこか危険な香り漂わせ魔性を持ち合わせた大人のいい女である。
ここまでの実績は、文句無し、麻子の積み上げてきた成果は、ずば抜けていた。 特に、狙いをつけた各国VIPを アポリス側に引き入れてしまうテクニック、機密情報を盗むなど、他のライバルの追随を許さなかった。
まだ、ホモサピエンス・サピエンスであったが、数ヶ月以内に、ここ日本で、ネクストノイドへの改造が行われる事となっており ネクストノイドへの改造後、ギル直属の最高幹部の1人に昇進が、決定事項となっていた。
このままの活躍を続ければ、アポリス総本部直属の諜報部へ栄転 幹部への昇進すら噂される程である。
それも、DNA適性率が高く 少数しか存在しないハイパー向けであった。 女性用ハイパーグロテノス スキャットのハイパータイプ ハイパースキャットへの改造も決定されていた。
「よく来てくれた 麻子」 ギルは、片膝を着き 頭を下げる麻子に声をかけた。
麻子は、故郷日本へ帰国後 そのままこの基地へ直行 ギルの元へ報告に来た。
「はっ ギル様 麻子 只今参上しました」
「長旅 ご苦労であったなあー」
ギルは、麻子の顔を覗き込んだ。 "相変わらずの厚化粧・・・色気過剰演出じゃのう・・・" ふっと思った。
ファッションも身体のラインが、はっきりと出る チャイナドレスを着用していたが、後ろは、シースルで、Tバックを強調 見せびらかしている。 過剰に艶やかな大人の女の色気を演出しようとしている。
"もう少し 年齢と言う物を考慮せねば・・・" "まあ しかしこれでも、中東の各国の重要と思われるVIPをこちら(アポリス)に引き入れたのは、他ならぬ麻子の実績じゃ はたして、どんなハニートラップ(色仕掛け)を使ったのやら・・・ それとも引っかかった男の方に、問題があったのやら・・・?" ギルは、思った。
「ところで、麻子よ ピエール神父の事 覚えておるじゃろう・・・」
「はっ 忘れもしません」 麻子は、顔を上げた。
「その ピエールじゃが、現在 首都Tに突如現れ、何やら不穏な動きを見せおる どうじゃ久し振りピエールと会って見ないか?」
「はっ ギル様のご命令とあれば、何なりと」 麻子の表情が、引き締まった。
かって、ピエールが、中東のI国にある 世界3大宗教の聖地 E市で、活動していた頃 そのピエールの接近を図る役目を 麻子が担当した。
何度かのコンタクトの後 ピエールが、中東以外の国へ急遽移動した為 何ら成果を挙げる事が出来なかった。
"エリート気取りの なまくら神父" 麻子が、ピエールに対する評価である。
「麻子 今度こそピエールをわしの元へ連れてまいれ 手段は、一任する。 必要とあらば、諜報部の何人かを連れて行け」
ギルの命令に、麻子は、立ち上がり一礼した。
「では、早速人選を進め ギル様の下へピエールを連れて参ります」 麻子は、ギルの下を去ろうとしたが、ギルに呼び止められた。
「今日の所は良い 長旅で、さぞ疲れたじゃろう 今日は、休め お前の為に、ゲストルームを用意しておいた。 明日から取り掛かれ」
「はっ ご命令とあらば」 再度 麻子は、一礼 迎えの者に案内され、ギルの下を去った。
"いよいよじゃのうー" ギルは、細く微笑んだ。
"問題は、行方をくらましている あのキャラン(浩司)とか言う男じゃ 恋人と共に、今だに行方が捕まえられぬ いったいどこにおるのやら・・・ やつが、ヤーナに入った場合 こちらの方が、殲滅戦になるのかも知れぬ・・・ 龍(ロン)のやつですら、基地を失い、かなり手こずったみたいじゃからのうー 早急に探し出し こちらへ組み込まなければのうー" ギルも キャラン(浩司)の持つ驚異の能力に只ならぬ興味を抱いていた。

 数日後 首都Tの中心部の近い場所にある大きなC宗教の教会 正門前に、黒塗りの大型リムジンが、横付けにされた。
黒服の男が1人降りると、後部座席のドアを丁重に開けた。
身体のラインが、はっきりと出る 白を中心としたマーメイド風ロングドレスに身体を包み 大きな帽子を斜めに被った貴婦人が降りてきた。
そう映画 マイフェアレディの主演女優 オードリー・ヘップバーンが、映画のポスターの写真にも着用していた 親友ジバンシー作の有名なドレスに、身体を包んだ麻子であった。
日傘を差し 颯爽と登場である。
指には、高価な指輪、両耳にはピアスなど、高級宝石、貴金属などをゴージャスに着飾り より一層洗練され成熟したエレガントな大人のいい女を演出 醸し出していた。
2人の黒服が、正門を開けると、黒服の男達を正門付近に待たせ 1人 軽やかな足取りで、礼拝堂へと向かって進み始めた。 歩く後ろ姿は、マリリン・モンローを意識し、お尻を左右に揺らす モンローウォークである。 常に過剰な色気を演出しようとしていた。
礼拝堂の扉を開け 正面の像の前に跪き 祈りを捧げる男を見つけると、早速 声をかけた。
「やっと見つけましたわ ピエール神父様」 上品で、少し甘えた口調で、色気を演出しょうとした。
ピエールは、立ち上がり声のした方へ振り返った。
「おや? だれかと思えば、Miss.麻子ではありませんか・・・」 少々驚いた表情である。
「I国 E市から突然いなくなり 神父様を追って、麻子は、世界中をお探しておりましたわ 現在 日本に居られると聞き 大急ぎで、日本へ帰国したのですのよ」 麻子は、大げさなゼスチャーで、ピエールに近づいていった。
ピエールの前へ立つと 上品に、シルクで出来た白のグローブをした右手を差し出した。
ピエールは、麻子の前で、片膝を着き 差し出した右手を右手で支え、軽く口付けをする。
その様子を見て 左手を口元にあて 「お・ほっ・ほっ・ほっ・・・相変わらずのお上品なナイト(騎士)様振りですわ ピエール神父様」
その言葉、態度とは裏腹に麻子は思った。 "何よ気取って、このヤーナの古狸・・・"
一方のピエールも "相変わらずの色気過剰演出、道徳の敵 このアポリスの女猫(めねこ)め・・・ どこまで追ってきやがる・・・"
・・・とお互い様である。 お互い相手の正体を知っており 正体が、バレているのを知っていた。
まさしく 狐と狸の騙しあい・・・? ならぬ 猫と狸の騙しあいである。
"余談であるが、麻子は、狐系の顔立ちではなく、猫系の顔立ちであった。"
本人曰く "猫系でも 上品で、決して懐かない気品に満ちたシャム猫・・・" と言っていたが・・・?
2人は、表面とは裏腹の一時の会話を 楽しんでいた。
この間 麻子は、抜け目無く 礼拝堂を含む、教会内の配置、教会内にいる人物の特徴など、鋭く観察していた。
ここは、ありふれたC宗教の教会の1つである。 ある程度の教会関係者を装うヤーナ側の人材を除いて、一般人 つまり普通の信者も多数出入りしている。
使えそうな人材を 探し出すにも余念が無かった。
特に、ピエールは、ここ首都Tの この教会に現れると、派手なパフォーマンスを繰り広げ、世間の注目を集めようとしていた。
一方のピエールも麻子が、この時期何故現れたか? その真偽を探り出そうとしていた。
そして、麻子を利用し、アポリスの注目を集めようと考えた。
「それでは、ピエール神父様 またお会いに来ますわ・・・」
そう言い残し 麻子は、礼拝堂を後にした。 色気過剰演出のモンローウォークは、決して忘れない。
礼拝堂を出ると、1人のシスター(修道女)とすれ違った。
別に、ここは教会の敷地内である 珍しくも無い事であったが、妙に顔が、童顔であった為 ふっと気になった。
すれ違い際 シスター(修道女)は、軽く微笑み会釈した。
"どこかで見た事があるような・・・" 麻子は、ふっと思ったが、余り気にならなかった。
"まあー 今の日本 アニメを中心としたコスプレイヤーが大流行し、首都TのAKBと言う場所は、世界のコスプレイヤーの聖地化している。 その1人だろう・・・" と思った。
それは、ピエールに事務の定時報告に来た みなっちであった。
麻子は、みなっちの手配写真を見ていたが、担当が違う為 余り詳しく憶えていない。
それに、特殊メイクを施してあるので、雰囲気からかなり違う 麻子でも 似た顔の1人程度にしか思えなかった。
それより 1人 気になる人物を見つけ出した。
敷地内の掃除番の男であった。
年齢は、40歳代中盤 いかにも暗く陰湿そうな顔、雰囲気である。 先程から すれ違ったシスター(修道女)や麻子ばかりを 変な目つきで見つめていた。
麻子の直感が、何かを示している。 "この男 使える・・・"
麻子は、正門で待っていた 黒服の部下の1人に、小声で耳打ちした。
「あそこにいる 掃除番の男 調べろ」
部下の男は、小さくうなづいた。

「貴様の正体は、解っている!!」 麻子は、身体にフィットする黒のスリーインワンのレザーファッションに、膝上まである黒の編み上げのロングブーツ姿であった。
手には、黒のムチを見せびらかしている。 SMのS女王様気取りである。
薄暗く 裸電球1つの どこかの陰湿な地下室の小部屋 椅子に縛られた男の自問していた。
ピエールと会ってから数日後 麻子の元へ報告が届いた。 ピエールのいた教会敷地内にいた掃除番の男についてであった。
その報告書を読むと、数人の部下に命令 掃除番の男を拉致させ ここに連れて来た。
「どうだ 悪い話ではなかろう・・・ 協力してもらえれば、望みの物のいくつかくれてやっても良いぞ・・・」
麻子は、薄笑いを浮かべながら 顔を近づけ ムチのグリップ部分で、顎をつく。
「それとも このまま警察に引き渡されるか? 好きな方を選びな!!」 麻子は、そのまま後ろへ回った。
「返事は!! 藤田 高志!!」
この男 名前は藤田 高志 今から数年前 首都Tの地下鉄内で、化学兵器サリンをばら撒き 多数の死傷者を出した 凶悪なテロ事件の首謀組織 A真理宗教の元隠れ幹部の1人であった。
A真理宗教に、警察の捜査が入り、自身の身に危険が迫ると、逃亡した他幹部などの情報などを売り 自ら身の安全を図り 雲隠れした男である。
警察は、手配犯の1人として、行方を追っていたが、以前行方をつかめずにいた。
有名な超1流大学卒、もしくは、超1流の大企業、高級官僚など出身で、学歴、企業名、地位なとを徹底重視の超エリートだらけの A真理宗教では、珍しく中卒であったが、A真理宗教へ入信後 すぐに頭角を現した。
元々オカルト神秘主義に強く没頭 A真理宗教のオカルト神秘主義に強く憧れ 尊師と呼ばれる頭目が持つと言う超常能力を修行と言うもので身に付けられると信じ入信していた。
その超常能力で、自らが妄想する邪な邪心を実現させようとしていた。
入信後 尊師と呼ばれる頭目の身の回りの世話係になると、尊師と呼ばれる頭目や、A真理宗教について、他の信者の陰口、不満を逐一尊師と呼ばれる頭目に、告げ口をし 出世してきた。
上の者には、媚を売り、ゴマを擦り、下の者には、上の者の威光を振りかざし尊大な態度で、相手をイジメ抜く 生まれながらのゲス、クズであり 汚れた、それでしか自己を表す事の出来ない性格であった。
小中学時代からクラスの中での悪口を教師に告げ口し、弱い者を見つけると 悪口をデッチ上げ 集団となって弱い者イジメする。
そして、自分1人が、常に、いい子ぶっていた。 この男の本質である。
自分自身の力では、何1つ出来ず、周囲に害悪を撒き散らす以外 何ら何も出来ない、典型的 陰湿な嫌われ者。
逃亡中 あるきっかけで、ピエールの存在を知ると、こっそり掃除番として、教会へ入り込み 他の信者の陰口、不満などをピエールに告げ口を始めようとしていた矢先であった。
「本当に、欲しい物をくれるのか?」 藤田 高志の目は、陰湿に輝いた。 ここ数日 毎日 定時に現れる 1人のシスター(修道女)に目を付け、よからぬ妄想を抱いていた。 まさしく変質者の目である。 いつかあのシスター(修道女)を手篭(てご)めにしようと企んでいた。
「まずは、女だ! 女をよこせ!!」 高慢な口調で怒鳴り散らした。
「どんな女が欲しいんだ」 うまく引っかかりそうだと麻子は、薄く微笑む。
「数日前 あなたの帰り際 すれ違った あのシスター(修道女)だ」 舌をなめずる 早 よからぬ妄想に浸っている。
「ほう あのシスター(修道女)か・・・ よかろう」
「そして、警察の指名手配リストから外してもらえるのと、あなた方の仲間に加えてもらえ、幹部の地位もくれると言う約束 本当だろうな」 空威張りする尊大な身の程知らずの口調であった。
「約束しよう 他だし成功した時だ」 うまく引っかかったと麻子は思った。 "この手の男など 簡単に利用出来る。 ちょっと目の前に、にんじんをぶら下げれば、糸も容易く引っかかる。 利用価値がなくなれば、後は、処分してしまえばいい。 新しく生まれるネクストノイドにおける輝かしい未来に、最もふさわしくないゲス以下だ。 役立たずの汚物は早めの処分に限る。 そして何よりも・・・"
麻子は、一瞬だが、遥か遠くだけを見る目つきをした。
「ならば、これから詳細な計画を話そう・・・」

2日後 計画は、実行された。
ここは、人通りも多い 首都Tの中心部近くに位置する C宗教の教会であった。
ピエールを始め ヤーナ全員 ある程度 警戒を怠っていた。
まさか、昼間から急襲をかけて来るとは、思ってもいなかった。
突然 周囲が遮断され 人通りが消えたと思ったら いきなり10体を超えるグロテノスが現れた。
その中には、かってキャラン(浩司)に叩きのめされた 身体を透明化出来るグウルスもいた。
藤田 高志の手引きにより 瞬時制圧 永井の信頼の厚い凄腕のボディガードと言え まるで相手にならなかった。
あっと言う間に、制圧 死体すら残らぬよう 処理されてしまった。
みなっちを始め 女性事務員3人 ピエール他数人が、人質に取られ、そのまま大型ヘリで、ギルの日本拠点基地へと連行された。
麻子の指揮の下 手馴れた 見事な電撃作戦になす術もなかった。

その事件は、すぐに、聖なる場所で待機していた ヤーナにもたらされた。
1人 命だけは取り留めたボディーガードに、DVDが、渡されていた。
警察、マスコミなど、この事件に関しては、全くの無視である。 事件そのものが存在すらしていない状態であった。 アポリスが、裏で、国家そのもののを手中に収めつつあった。
みなっちを含む 3人の女性事務員は、最後の補給品の全ての事務処理を終え 明日貨物船同乗 聖なる場所に、帰る予定であった。
最後の事務処理を終えた報告の為 3人 シスター(修道女)姿で、ピエールの事務室にいた所を襲撃された。
反撃すら与える隙もなく 捕虜にされ連行された。
すぐに、聖なる場所に残っていた NO2以上の最高幹部全員非常徴収され会議室に集まった。 その場で、DVDは、すぐに、再生された。 画面に現れたのは、麻子であった。
「ここに、お集まりのヤーナ最高幹部の諸君 今 我々の手元には、君達の最高幹部の1人を含む 数人を丁重に、お招きしていただいた。 下手な手出しをすれば、どうなるか? 解っているだろう 私としても余り手荒なマネはしたくない そこでだ まずは、話し合いから始めよじゃないか? TV通信専用の周波数は、下記だ その時 まず人質の安否を確認すれば良かろう・・・ 話し合いに応じる気があるならば、すぐに連絡する事だな」
画面が、ブラックアウトになった。
「これは、罠だ!!」 スティーブが叫んだ。
「TV通信専用の周波数から こちらの基地を逆探知する気だ」 ドレークも声を上げた。
腕を組んだまま 黙りこんでいたマークは、口を開いた。
「それは、解っておる しかし・・・」
ここで、浩司が、口を開いた。 「アンダーソン博士」
「どうしたのかね 浩司さん」 アンダーソンは、浩司の方を見た。
浩司は、椅子から立ち上がった。 何か? アイデアがあるみたいである。
「UFOの1機に、こちらからのSVL(超光速)通信を送りUFO内でアポリスの指定した通信周波数に切り替え 通信出来るように出来ませんか?」
「なる程・・・」 アンダーソンは、手を叩いた。
「どういう事かね?」 マークが問いかけた。
「こう言う事ですよ」 浩司は、説明を始めた。
「やつらの狙いの1つは、こちらの基地を探り出し こちらが、人質の救出の隙を突き 手薄になったこちらの基地に攻撃を加え叩き潰す事ですよ だからまず 話し合いに応じる姿勢を見せる訳です。 ですが、みすみすこちらの基地を教える必要は無い。 アホリスと言っても こちらの使っている SVL(超光速)通信のテクノロジーを知らない だからわざわざTV通信専用の周波数を指定した訳ですよ。 まずUFOを1機飛ばします。 もちろん ここからリモートコントロールで、自由自在に空を飛びまわってもらい・・・ なんならどこかとんでもない場所着陸させてでもいいんですが・・・ まずこちらからUFOに、こちらのSVL(超光速)通信を送ります UFO内で、こちらのSVL(超光速)通信をやつらの指定した周波数に変換し通信すれば、こちらの基地は解らない」
「うーん それはいいアイデアじゃなあー」 マークはうなずいた。
「アンダーソン博士 時間はどれくらいかかるのかな?」 マークはアンダーソンを見た。
「時間は、直ぐにでも出来ます。 UFO内の通信機のセティング変更だけですので、数分あれば・・・」
更に浩司は、思いついた作戦を話始めた。
「そして、こちらが、罠に引っかかったと思わせ ある程度の部隊が、逆探知した偽の基地の場所を目指し出撃した隙を突き 人質を奪回すればいい 他だしやつらも そこまで計算しているはず。 こんな単純なブービートラップに引っかかるよな連中じゃない かなりの兵力 特に、主力のグロテノスを多数基地内外に温存しているはず。 そうでなければ、人質のいる基地の場所を知らせるなど有り得ない しかしある程度の兵力の分散は出来る。 あくまでもこちらの目的は、人質の救出の1点に、全兵力を集中 下手に基地の制圧、B,P奪取などは、禁止 幸いにもピエール神父は、SVL(超光速)通信ブレスレットをしている。 やつらに取り上げられていなければ、発信元を特定出来、基地内の居場所は、すぐに解る。 そこを急襲出来れば、成功の可能性が高い・・・ それに、やつらは、まだこちらの主要武器は、軍用ライフルだと思っているから、例の新型エネルギーライフル ER01Tを全部隊に、配備されていますので、使用すれば、最初のうちは、多少なりとも混乱するはず、その隙を突く 人質救出後 直ちに撤収 無用な戦闘は、極力避ける事」 浩司は、一気にしゃべり終えた。
マークは、大きくうなづくと決断した。
「よし 浩司殿 作戦を採用しよう 目標は、人質救出のみじゃ 永井司令官 細かい救出作戦は、君一任する よいかな?」
「はっ 直ちに 微力ながら 全力を尽くします」 永井は、立ち上がると敬礼した。
「よし 準備及び細かな作戦が決まり次第 直ちに実行じゃ」
"やはり 浩司殿の戦略家として作戦立案センスは、なかなかのものじゃのうー" マークは、感心した。
浩司の方は、"みなっち・・・無事でいてくれよ 直ぐに助けるから・・・"
それと無用な戦線拡大を防ぐ為 あえて人質救出のみに限定した。 下手な戦線拡大は、戦力的に遥かに劣勢に立たされている今のヤーナの現状では持ちこたえる事が出来ない。 間違いなく殲滅戦になる 攻撃に出動した部隊が戻るまでの間に、人質の救出を行わなければならない 短時間勝負である。 この時こそ戦力の集中が必要だ。 無用な戦闘を避け 人質救出後 即撤退 今このプラン(作戦)が、最もベターだと浩司には思えた。

数時間後 細かな作戦も決まり 人質救出作戦が、実行された。
永井は、作戦を決めるに当って、浩司に作戦会議に参加してもらい 更に細かなプラン(作戦)を練り上げた。
まず2機の小型UFOが 無人で、発進した。
1機は、浩司のアイデアの通信を変換するUFO 向かった場所は、太平洋上の本土からかなり離れた無人島であった。 出来る限りアポリスの部隊を遠ざける為である。
そして、周辺に、いくつかの自動小銃を配備する。 アポリスの動きに合わせ 自動小銃で撃ちまくり いかにも基地があるようにカモフラージュさせる為である。
もう1機は、ギルの基地上空 高高度に向かった アポリスの動きを偵察する為である。 エルのテクノロジーの1部であるが、高解析機能を搭載し、アポリスの動きを偵察する。 もちろん両機共 目、レーダーに映らない ステルス、透明化してである。
そして、救出部隊も 残りのUFOに乗り込み 発進した。 部隊編成は、当初の第1班、第3班のままであった。
第1班は、アポリスの攻撃部隊が発進後 タイミングを計り 基地内の人質奪還 第3班は、予備部隊であったが、基地周辺に、多数の兵力の配置が行われているはず、ケースバイケースによっては、戦端を開き アポリスの目を引く陽動の任務も負おう。
第1.3班を乗せた数機のUFOは、ギルの基地周辺部の比較的安全と思われる場所に着陸 透明のまま 命令がでるまで待機である。
空には、満点の星が輝く夜となっていた。
浩司は、他の戦闘員同様 緑色を中心とした極彩色の野戦服に身を包み 手には、ER01Tエネルギーライフル 左脇のショルダーホルスターには、例のS&W M29 44Magmunが収められ 首からは、夜襲などに対しての暗視ゴーグルが下げられていた。
数度の戦闘経験はあるものの、単独の戦闘のみで、初めての多数の兵力を率いての実戦であった。
かなりの緊張感が、表情から覗える。
"果たして、兵を率いて戦う事が出来るのか?" それとみなっちを始め 人質の安否であった。
そして、聖なる場所に、残った者は、アポリスとの話し合いに当たる任務である。
交渉に、当ったのは、評議員のスティーブ、サミー、コリンズ神父であった。 3人共 マーク、ピエールと同様 アポリスに顔が割れており 交渉には、うってつけであった。
通信回線が開かれた 一応念のため 全てホワイトボードで覆われた部屋で行われた。
「こちら ヤーナ最高評議会 評議員のスティーブ、サミー、コリンズの3人だ 話し合いに応じよう・・・」 数回繰り返した。

その頃 ギルの基地内では、迎え撃つ準備が、整っていた。
後は、ヤーナの出方次第である。
捕虜として連行したのは、教会内にいた 総勢30人いたヤーナのメンバーのうち、戦闘中に、ボディーガード10人全員を含む 20人が戦死 残る10人のうち 4人が、この基地までの連行中 戦闘中の怪我が原因で、帰らぬ人となった。
残ったのは、ピエールと3人のシスター(修道女)と2人の側近の計6人であった。
ピエールは、基地内に連れ込まれると1人 別の場所へと連れて行かれた。
残りの5人は、同じ牢獄へとぶち込まれる。
1人別の場所へ連行されたピエールは、薄暗い部屋 十字架の磔台に縛り付けられた。
しばらくすると、そこに、SMのS女王様の黒のレザーファッション姿の麻子が、数人の黒服の部下を連れ入ってきた。
男を虜にし たぶらかそうとする妖艶 妖魔的な、小悪魔、魔女にも似た 本物の大人の女の持つ どこかミステリアスな色香を醸し出そうとする演出であるのが明らかだ。
突然 部屋が真っ暗になる。
一筋のスポットライトが、麻子を照らし出した。
麻子は、上を見上げると、何やら悲劇の舞台のヒロインを 1人舞台で演じ始めた。
上を見上げながらオーバージェスチャーで、ゆっくり数歩進むと、そこには、中世ヨーロッパ建築を思わせる石造りの手すりが現れ 両手を手すりの上に置いた。
上を見上げながら 悲劇のヒロイン風のちょっと切ないセリフを言い出した。 その表情は、だれかに恋する切ない女性である。
潤んだ瞳の中には、無数の星々が燦然と輝いていた。
少女マンガ的 乙女ちっくな演出である。

一部始終をモニター画面で観ていたギルは思った。 "う〜ん もう少し年齢と、今この場の雰囲気と言うものを考慮せねば・・・" 
腕を組み考え込んでしまった。

「ピエール神父様、ピエール神父様 私の愛おしのピエール神父様 何故あなた様はピエール神父様なの・・・」
ウイリアムス・シェークスピア作 ロミオとジュリエットの有名な1シーンのパクリである。
すると、今度は、磔台に縛られたピエールにもスポットライトが照らされた。
麻子は、ピエールを見つけ出すと、慌ててピエールの傍に寄り両膝を地面に着いた。
両手を少しだけ上げ 潤んだ瞳で、ピエールを 少し上目で見つめた。
「何と 御痛ましいお姿で・・・ ピエール神父様 今 私くしめがお救いしますわ」
麻子は、磔台の前に立ち 十字架に縛られている ピエールの縄を解く振りをした。
突然 解くのを止めると、左斜め下を見つめた。
「私くしと言えども やはり組織の命令には、逆らえませんわ」
麻子は、振り返りピエールを見つめた。
「でも ピエール神父様 1つだけあなた様を お救いする方法がございますわ」
麻子は、胸の前で両手を結び、星の様に輝く瞳で、ピエールを見つめた。
「それは、ピエール神父様 あなた様が、私達アポリスの一員になる事ですわ」
麻子は、ゆっくり両手を広げた。
「私達 アポリスの一員となり 新しい人類 ネクストノイドとなって、私達と共に輝ける未来を創造する事ですわ」
両手を大きく上げ、麻子の表情は、晴れやかになる。
「そして、輝ける新しい人類 ネクストノイドが作り出す、輝ける未来こそ、ピエール神父様 あなた様に最もふさわしい・・・」
麻子の演技と、似てもても似つかわない 黒のレザーのスリーインワンにTバック 両手は、肘まである黒のレザーグローブ、黒のレザーの編み上げの膝より上のロングブーツのSMのS女王様ファッションで、ウイリアムス・シェークスピア風 悲劇の舞台を鑑賞させられたピエールは思った。
"ウイリアムス・シェークスピアに対する これ以上無い侮辱、冒涜" だと・・・
"たかが頭の悪い アポリスの???(放送及び、差別、表記不能用語 とても神父の言葉とは思えない汚い言語)め・・・ ((答え=淫売女)) 貴様は、神々及び全ての道徳の敵だ!!"
しかし何も答えず、冷ややかな目で、麻子を見ているだけであった。
ちなみに、麻子の事を頭が悪い・・・は、間違いである。
本人の名誉の為に述べておこう 麻子のI,Q(知能指数)は、非常に高く、知性は高い。
愛読書は、ウイリアムス・シェークスピア、ヘミングウエー、ゲーテ、トルストイ、マーガレット・ミッシェルなどの世界歴史上有数の文豪の作品を読破 今宵無く愛する教養の豊さも示している。 そして、恋愛感は、有名な ジャワハルラール・ネール元インド首相が、娘に贈った 娘への手紙の有名な1節 (『父が子に語る世界歴史』より) (娘=インディラ・ガンジー元インド首相 1984年10月31日 テロリスト SE宗教の2人の警護警官により暗殺)
「愛は平和ではない。 愛は戦いである。 武器のかわりが誠実(まこと)であるだけで、それは地上における もっともはげしい、きびしい 自らを捨ててかからねばならない戦いである。 我が子(娘)よ このことを覚えておきなさい」 と言う 高尚で、C宗教的 自己犠牲的 激しい情熱的恋愛感の持ち主でもあった。
しかし、今の麻子は、そんな全てをオブラートで包み込み クールで、ドライな恋愛感を持つ女を演じている。 決して媚入らない・・・ この世界・・・マタ・ハリ(女スパイ)として生きていく為に・・・ それは、ある目的を達成する為に・・・ それが今の麻子を支えていた。
高い知性と豊な教養を兼ね備え 文学系に、特に優れた才女である。
「御返事をお聞きする前に、あなた様へ お見せする物がございますわ」
麻子は、黒服の1人に、サインを送った。
直ぐに、両手を後ろに縛られ、全身傷だらの男が入ってきた。 顔も殴られ 赤くはれ上がっている。
麻子の前へ来ると 両膝後ろを黒服に蹴られ 正座させられ、頭を地面に擦り付けられた。
「このゲス 顔に見覚えがありましょう?」
麻子の表情は、一瞬 すさまじいばかりの殺気を見せた。 同時に口調が変わった。
"何かあるなあー・・・?" この一瞬の表情の変化を ピエールは見逃してはいなかった。
「そう 教会で掃除番をしていたゲスだ 実は、今回の作戦 このゲスの手引きによる部分が、大きくてねー」
麻子は、憎しみの炎で燃えさかる鋭い目つきで、掃除番の男を睨みつけた。
ピエールもその男に見覚えがあった。 掃除番として、担当者が採用したが、名前などは、一切知らなかった。
そう この男 名前は、藤田 高志 元A真理宗教の隠れ幹部の1人である。
名前や 経歴などを偽装し、ピエールの教会へ掃除番として、潜入したが、裏切った男であった。
「話しが・・・ 話しが、違う・・・約束は・・・」 空威張りで、すごんで見せようとした。
「何を言うか!! このゲス以下め てめえなどに何ら約束した覚えなど無い!!」
麻子は、黒服の1人から手渡された杖で、藤田 高志の顔を数回殴った。
「貴様達に殺された 罪も無い多数の人々の復讐・・・ 貴様のようなゲス以下には、輝ける未来は必要ない 今 この場で、貴様に最もふさわしい物をくれてやる」 そう言い終わると、黒服の1人にサインを送った。
「何・・・ この女(あま)何をする気だ・・・」 そう言い終わらないうちに、藤田 高志が、正座していた地面が、突如大きく開いた。
そのまま 開いた地面へと墜落する すると何もなかったように、地面は閉じた。
ピエールの前に、大型モニターが現れた。
同時に画像が映し出される。
そこには、汚く、薄暗い洞窟? いや地下室?のような場所が映し出されていた。 そこへ藤田 高志が落ちてきた。
落下速度は、途中大幅軽減され ゆるやかな落下である。
横向きにでの落下であったが、それ程ダメージがない様子であった。 直ぐに頭を持ち上げ、ゆっくりと周囲を見渡しながら立ち上がる姿が映し出された。
そして、表情が、一変する 何か恐ろしい物を見て 恐怖にかられる表情である。
周囲には、バラバラにされ喰いちぎられた無残な人間の死体が散乱していた。
「よく見て下さい ピエール神父様」
麻子の口調が、先程の 悲劇のヒロイン風に戻った。
そして、見た事のない大型の獣? らしき動物が、牙を剥き出し 口からよだれを垂らしながら ゆっくりと数体現れた。
頭の額には、赤いネクスタルがあるが、だが何かが違う まるで、理性など感じない 本能だけ・・・他だ飢え、獲物を狙う 獣のような表情であった。
「ここにいるのは、改造の失敗体ですわ 知性、理性もなく 他だ殺伐とした殺戮本能があるのみですのよ そして、この失敗体のエサは、生きた人間のみですのよ ほっ・ほっ・ほっ・・・」
麻子は、手を口元に当て、高らかに笑い声を上げた。
1体の失敗体が、タイミングを計り いきなり飛びかかると 藤田 高志の首筋に噛み付いた 鮮血が噴水の如く飛び散る 同時に残り数体の失敗体も一斉に襲いかかった。
断末魔の叫び声があがる。
身体の至る所からは、鮮血が血吹雪を上げ 周囲に飛び散る。
腕や足がもぎ取られ、内臓までもが、抉り出され引きちぎられ、喰いちぎられていく。
あっと言う間に、バラバラにされ 骨までもが喰いちぎられていった。
余りの残忍シーンに、さすがのピエールですら 顔を背けた。
「どうでしたか? ピエール神父様 あの汚れたゲスの最後 あのゲスは、数年前 首都Tの地下鉄内で、サリンをばら撒いた 憎くきA真理宗教の元隠れ幹部の1人・・・」 その言葉、表情には、言いようのない憎しみが込められていた。
あの地下鉄にサリンをばら撒かれたテロ事件 被害者の1人は、まだアポリスの存在さえ知らなかった麻子の今は亡きフィアンセであった。
たまたまその日 その車両に乗っていた為 サリンを大量に浴びた サリンは、目の前でバラ撒かれ直撃であった。 それでも 朦朧とする意識の中 他の同乗し倒れ掛かっていた乗客の1人を助けようと 駅到着後 肩で支え下車 駅ホームで、必死に助けを求めようとしたが、力尽き そこで帰らぬ人となった。 最後の姿は、うつ伏せ倒れ その右手には、麻子と結婚を誓い合ったその日 2人でお揃いで買った シルバーのハートのペンダントが、しっかりと握り締められていた。
この日 当時首都Tの都心内にある大規模複合型ショッピングモールで、高級貴金属ジュエリー店の販売員をしていた麻子の記念すべき寿退社の日で、夜 職場の同僚による送別会が、盛大に行われる予定となっていた。 そして、数日後には、チャペルの教会で、多くの友人達に見守られ華やかな純白のウエデング・ドレスに身体を包みバージンロードを歩く夢に見た結婚式を挙げる予定であった。
フィアンセの死は、職場へ出勤後 TVのニュース画面に出た 被害者 死亡者リストで知る事となる。
フィアンセの名前が出た その瞬間 その場で、呆然と立ち尽くし 何も理解できない状態となった。
そして、事件の全容を知ると 亡きフィアンセの墓前に、復讐を誓った。 "必ず A真理宗教信者全員を血祭りにあげる" と。
それが麻子の 亡きフィアンセに対する 計り知る事の出来ない永遠の愛の誓いであり 聖なる誓いでもあった。
警察、検察の生ぬるいやりかた、全く反省の色さえ見せない信者 逮捕後 逆に開き直る姿など、何度かの裁判傍聴中 全て麻子の逆鱗に触れ、言いようのない怒りが込み挙げるばかりであった。
しかし麻子1人の力では何も出来なかった。 その為の力が欲しかった。
たまたま 再就職先が、派遣社員で、ある軍事産業の事務の仕事であった。
その軍事産業は、アポリスの表の顔の会社の1つであった。
ある日 偶然に、人間が、見た事も無い まるで、子供向けのアニメのヒーロー者ように、怪物に変身 軍用ライフル銃を持つ数人の兵士らしき者に取り囲まれてしまったが、軍用ライフル銃などの銃弾など喰らってもものともせす、怪物自身が持つ 強力な武器で、瞬時に死体すら残さぬよう片付けてしまうシーンを目撃してしまった。
それは、ヤーナとアポリスの間で、繰り広げられていた 小さな小競り合いの1つであった。
そして、その怪物に変身したのが、派遣先の軍事産業で、麻子の所属する課の上司であった。
近い将来 最高幹部への出世が噂されたエリートで、常に物事に対して積極的で、頼りがいのある上司であった。
だがそんな上司の事よりも 麻子に取っては、その怪物の持つ 驚異の戦闘能力に心が奪われた。
これこそ 麻子の求めていた力であった。 この力を手に出来れば、必ず復讐がやり遂げられると・・・
麻子は、意を決し物陰から姿を現し 怪物の前で、跪(ひざまず)き 両手を合わせ涙ながらに、仲間に入れてくれるよう頼み込んだ。 そして、今まで心の奥底にしまい込んでいた だれにも打ち明けていなかったA真理宗教に対する復讐の全てを語った。
麻子は、自分自身が怪物になる事にいとわなかった。 もう失う物は何もない。 全て復讐の為である。
復讐の為に全てを捨てる覚悟であった。
怪物から元の人間の姿に戻った上司に、涙ながらに跪(ひざまず)き A真理宗教に対する復讐の全てを語った麻子を 他だ黙って見つめた。
上司は、そんな麻子の気持ちを組んだのか? 他だ「わかった・・・」 その一言である。
そして、麻子のアポリスへの加入が認められた。
その上司は、その後 キャラン(浩司)との龍(ロン)の孤島基地での戦闘中 戦死したが、麻子は、その事実を知らない。
アポリスに入り いつの日か、A真理宗教信者全員を皆殺しにする事を夢見てきた。 アポリスに入った後 地獄の養成所に入り そこを優秀な成績を残し卒業 危険な諜報部 実行部隊へ志願 マタ・ハリ(女スパイ)となった。 担当地域は、本人の希望と違う中東で、ギルの配下に配属された。
スパイの世界は、想像を絶する過酷な世界であった。 あらゆる屈辱、侮辱を味わった。 女・・・ただそれだけの理由で・・・ しかし麻子は、我慢した、耐えた、辛抱した。 きっといつの日か報われる日を信じて・・・ 身体は売っても 決して心は売らなかった。 麻子を支えていたのは、たった1つ 胸に飾られている シルバーの小さなハートのペンダント ハートを開くと、そこには、今は無きフィアンセと麻子の写真が収められていた。 どんなに辛く悲しい時でも 小さなハートのペンダントを握り締め耐えた。 全て あの憎っくきA真理宗教をこの世から抹殺するまで・・・
あの日・・・ 地下鉄にサリンをバラ撒かれた日・・・ 麻子の夢にまで見たバラ色の人生、将来、幸福、未来・・・ 全てが奪い去られてしまった。
麻子に残されたものは、他だ復讐だけ・・・
復讐から何も生まない事も麻子は知っていた。 しかし亡きフィアンセに対する 限りなき深い愛情が、A真理宗教に対する 底なしの深い憎しみになっていた。
アポリスに入っても、直ぐには、グロテノスへの改造は受けられない それなりの忠誠心を示し、実績が必要であった。
その後 何度も、実績を挙げ ネクストノイドへの改造チャンスが訪れたが、あえて拒否してきた。
ネクストノイドになっても その時点までの実績では、下級兵士である。 同じ下級兵士でも まだ改造を受けていない兵士を率いる部隊長にはなれるが、それでは、麻子の目標に遠く及ばなかった。
麻子の目標は、幹部それも、高級幹部となって、命令を下す地位を得て、多数の兵を率いる事であった。
1人だけの力では、何も出来ない事を知っていた。
そして、いよいよそのチャンスが訪れようとしていた。 マタ・ハリ(女スパイ)として、アポリスでも1,2を争う実績を上げ 遂に、念願だったネクストノイドのグロテノスそれも 最新最強タイプのハイパーグロテノスの1つ、ハイパースキャットへの改造のキップを手に入れた。
適性率検査で、極めて高い数値を記録 これは、決して努力で身に着くものではない。 生まれ備わっていた物である。
少数しかいないハイパー向けであった。 もし適性率が低ければ、ノーマルタイプのグロテノスである。 ある程度の出世は可能だが、高級幹部なれる可能性は低かった。 その瞬間 麻子の夢は、潰(つい)えたであろう。
運命は、麻子に微笑んでいるかのようであった。
改造後は、ギル直属の高級幹部の1人に抜擢が決定されている。
遂に、麻子は、望みの物を その手に入られる所まで、這い上がってきた。
ハイパースキャットとなり、多数のグロテノス兵を率いて、必ず亡きフィアンセの復讐が遂げられると・・・
そして、今 処分したゲス以下は、これから始まる復讐劇の第1幕、最初の血祭りに挙げた 亡きフィアンセの為の供養の第1号であった。
だが この事はだれも知らない だれも覗き見る事の出来ない麻子の心の奥だけしまいこまれ、決して・・・、あの上司以外 だれにも話す事がなかった。
麻子は、処分した第1号を 他だの元隠れ幹部の1人としか思っていなかったが、実はこの藤田 高志は、尊師と呼ばれる頭目に、事ある語とに、耳打ちし 煽(あおり)て上げ、自らの邪(よこしま)な、邪心、妄想を実現させる為 利用していた。
その結果が、一連のサリン事件を始めとする 数々の事件であった。
尊師と呼ばれる頭目を 世界の支配者に就かせ その威光を隠れ蓑にあらゆる権力を振りかざそうとしていた。
しかし形勢が悪くなると、尊師と呼ばれる頭目の居所まで、警察に密告し 売り渡すと、その間隙を突いて、逃亡を図った
いわば、一連の事件は、全て、この男の邪(よこしま)な邪心、妄想が、生み出した結果であった。
そして、この男こそ、全ての事件の真の主犯格であり 張本人であった。
しかし その事実をだれ1人として知る事なく、薄暗い地底で、バラバラにされ、喰いちぎられた この男の最期としては、余りにももったいない程の楽な死に方であった。
もし麻子が、この事実を知っていたならば、最っと憎しみを込め、残忍で、最っと苦しません、いたぶりながらじわじわと殺っただろう・・・
何も知らず、麻子は、自らの手で、今は亡きフィアンセを奪った 最大の張本人を処分した。
後に、この元A真理宗教の隠れ幹部 藤田 高志の潜伏先を徹底的に家宅捜査し、莫大な隠れ資金を発見した。
A真理宗教から逃走する時 隠れ資金の大半を持ち逃げしていた。
現金、裏口座など全てを接収すると、その資金は、全て、A真理宗教の被害者救済基金に、いくつかの偽名を使い寄付してしまった。
その事は、本人以外だれも知る事は無かった。
被害者や その周囲で同じ苦しみを共有する人々への ほんの少しの手助けになればと言う気持ちからであった。
そんな時であった。
モニター画面が、切り替わると1人の兵士が映し出された。
「麻子部隊長殿 ヤーナから通信が入りました 直ちに、作戦司令部までお越し下さい」
「と言う事ですわ ピエール神父様 麻子は、参らなければなりません。 お楽しみは、後程と言う事で、それまでの間 ゆっくりお考えあそばせ・・・」  と言う終わると 1人の黒服にサインを送った。
黒服の1人が、下士官用の制服を麻子の肩にかけた。
「では 後程 愛おしのピエール神父様」 甘えた口調で、そう言い残し 数人の黒服と共に、部屋を出た。
部屋を出る瞬間 振り返ると ピエールに向かって 投げキッスをし 高らかに笑い声を上げた。

「これは、これは、ヤーナ最高評議会 評議員諸君」 コーカソイドの古代ギリシャの賢人風の老人が、画面に現れた。
この模様は、全てヤーナのUFO内のモニター画面にも同時中継されている。
「申し遅れたが、わしは、8大将軍の1人 ギルと言う者じゃ」 画面に現れた老人は、そう名乗った。
間違いなく本人であった。
頭の額には、エメラルドのネクスタルが輝いている。
「評議員 自ら話し合いに応じると言う事なので、失礼に当らぬよう わし自ら話し合いに出むいた お初にお見えにかかれて光栄じゃよ」 ギルは不敵な笑みを浮かべた。
「私は、ヤーナ最高評議会 評議員のスティーブです。 ギル将軍 まず話し合いを始める前に、人質となった私達の仲間の安否を確認させてもらいたい」 スティーブは、立ち上がり まず自分達の要求を述べた。
「よかろう」 ギルは、サインを送った。
ヤーナ側の画面には、2つの映像が同時映し出される。
画面右には、牢獄に捕らえられている 5人の男女 画面左には、十字架に磔にされているピエールであった。 見た目には6人共 ケガは、追っていないように見える。
「この通り お迎えしていただいた者達は、丁重に扱わせておりますよ 他だし 残りの4人は、ここに来る途中 戦闘中のケガが原因で今安置所におりますが・・・」 ギルは、そう答えた。

画面右の 牢獄の中には、3人のシスター(修道女)の姿の女性が確認出来た。 その中にはみなっちの姿があった。
浩司は、それを確認すると ひとまず安心した。
とりあえず無事でいてくれた。

「話し合いだが、まずこちらの要求を述べよう」 ギルは立ち上がり ゆっくりと歩き始めた。
「こちらの要求は、ヤーナの無条件全面降伏及び、即武装解除じゃ そしてじゃ・・・」 ギルはまたも何かのサインを送った。
すると画面が、全て牢獄の1人のシスター(修道女)のアップが映し出された。 みなっちであった。
「このシスター(修道女)姿の女 身元は、もう解っておる 特殊メイクで顔を変えておる事もなあー キャラン(浩司)君 やはり君は、ヤーナに加入しておったか・・・ まあそれはよい それより隠れていないで姿を現したらどうかねー 君の最愛の彼女は、今 我々の手中にある。 そこでだ、まずは君だ 我々の基地へ来た前 1人でなあー 君と話し合おうじゃないか・・・ まずは、我々がいかに本気か この場でお見せする事にしょう」 ギルは、そう言い終わると また何かのサインを送った。
牢獄の前に一斉に 武装した兵士が現れた。 軍用ライフル銃を構える 1人の兵士が牢獄の扉を開け 中に入っていく 無理やり1人のシスター(修道女)を捕まえると 牢獄の外に連れ出した。 1人の男が抵抗しようとしたが、ライフル銃のグリップ部分でみぞうちを叩かれ その場で倒れた。 連れ出されたのは、みなっちではなかったが、まだ40歳代前半の年齢よりかなり若作りしていた女性であった。 名前は、準子(じゅんこ) 愛称じゅんちゃん 両親が、ヤーナに加入した為 一緒に加入した女性であった。
床の1部が、2つに割れ そこには、かってフランス革命時に使用されたのと同じギロチン台が競りあがってきた。
準子は、泣き叫び必死な抵抗も空しく 目隠しをされ 首がギロチン台の上にセットされる。
他だし ギロチン台の上部には、巨大な刃が無い。
すると そこに1体のグロテノスが現れた。 CD-RWの中にあったかまきり虫に似た ダガトであった。
主な武器の1つは、その両手 刀、鎌、槍などに変形可能で、それを武器に、相手を切り裂く、突き刺す事も出来る 更に飛行能力も有していた。
何をするのか? 一目瞭然である。
「解っておるじゃろうー 我々に逆らうと」 そう言うと、ギルは、右腕を刀のように上げ 振り下ろした。
ダガトの右腕は、鎌の型に変形し上段に持ち上げ構えた。 そして、ギロチン台に載せられ泣き叫ぶシスター(修道女)姿の準子の首筋に向かって振り下ろされた。 その瞬間 シスター(修道女)姿の準子の頭だけが、地面に転がり落ちた。 一瞬の静寂が周囲を支配する。
モニター画面を見ていた ヤーナ側全員 時間が止まったように静まり返っり だれもが、あ然とその光景を見守る事しか出来なかった。
牢獄にいた みなっちともう1人のシスター(修道女)姿の女性も 余りの残酷シーンに目背け 地面崩れ落ちた。
「これでお解かっだろう 我々に逆らうとどうなるか? 時間は、1時間後 キャラン(浩司)君 君1人 この基地へ来る事だ 時間までに来なければ、次ぎは、誰かが、同じ目にあう」 ギルはそう言い終わると 画面がブラックアウトになった。
話し合いなんてものではない 一方的降伏勧告である。
ヤーナとしては、決して受け入れられない。 その為の救出作戦を展開しようとした矢先 先手を取られ 人質の1人を公開処刑された。

浩司は立ち上がった。
「和田評議員待遇 どこへ・・・?」 1人若い兵士が声を掛けた。
浩司は、何も答えずそのままハッチへと向かって歩き出した。 途中若い兵士の1人に 手に持っていたER01Tライフル銃を手渡す。
無言のまま若い兵士は受け取った。
同時にモニター画面にマークが映し出される。
「浩司殿 早まってはいかぬ これは罠だ 今 行っても・・・」
「止めても無駄ですよ これ以上被害者を出さないうちに・・・ やつら(アポリス)の要求通り1人で行きます」 浩司は立ち止まり 振り返りモニター画面の1つに向かって言った。
「A-2ポイントへ行きます。 ・・・ それと永井司令官」
「浩司さん・・・ 司令官として命令です。 行ってはなりません」 別のモニター画面に永井が映し出された。
浩司は、永井の命令を無視した。
「サイン・・・ 多分どんちゃん騒ぎを起すと思いますので、騒ぎが起こったら そのどさくさにまぎれて、救出作戦開始して下さい。 基地内では派手などんちゃん騒ぎになっていると思いますので、もしくは、コールサイン50を出します・・・ 後は宜しく」
そう言い終わると 浩司はハッチの扉を開いた。
「今 直ぐにと言っても 浩司殿 ここからA-2ポイントまで、直線で8km以上ある どうやって・・・」 モニター画面からマークは聞いた。
「俺の能力 忘れましたか?」 浩司は、同時に久し振りに戦闘モードに入る 身体全体にレジェンスからの無限のエネルギーが駆け巡る。
ハッチの前の浩司の姿が消えた。 A-2ポイントを映し出している モニター画面に、浩司が、瞬時に現れた。 浩司は、超高速で、A-2ポイントへ移動した。
A-2ポイントのモニター画面を見ていたヤーナ全員 さすがに度肝を抜かれた。 信じられない光景である。
僅か数秒もかからず、約8km移動など、信じる事の出来ないスピードであった。
ヤーナ加入以来1度も見せていなかったレジェンスと融合している驚異の能力の一端であった。 戦闘訓練中でも本来の生身の能力しか見せておらず、1部疑問を抱いた人達すらいた。

「やつらの発信元 突き止められたか?」 ギルは、前方を見据えた。
前方には、幾つかに仕切られた大型マルチスクリーンがあり スクリーンの中心部には、日本列島を中心に周辺諸国まで映し出されている。
「はっ 現在最終確認中ですが、発信源は、太平洋上にある小さな無人島から発信されていると思われます。 多分やつら(ヤーナ)の秘密基地の1つは、そこにあると思われます 今 正確な座標をマルチスクリーンに出します」
ギルの前方 数m下がったマルチスクリーンの前 何列も長いテーブルが並べられ その上には、何台ものコンピューターのデスクトップが並べられており 1台1台の前には、担当者が各種データの操作、処理をしていた。 その中の1人 発信源を特定する担当者が答えた。
正面マルチスクリーンの中心部に、最大画面が切り替わった。 日本列島を中心に周辺諸国まで、表示され 太平洋上のある無人島が、赤く点滅を始めた。
逆探知の結果 発信源と思われる場所である。
「やはり 罠じゃのうー」 ギルは、つぶやいた。
過去 何度かこの無人島を捜査したが、何ら基地の痕跡すら見つかっていない場所であった。
しかしこれもギルの作戦の計算に入っていた。
「当初の作戦通り まず攻撃部隊を出動させろ」 ギルの命令が飛んだ。
この攻撃部隊をカモフラージュ用トラップ(囮)である。 少数のグロテノスを逆探知した発信元へ向かわせるが、いつでも急転させるように準備させておく。
「続いて、基地内に第1種戦闘配置命令を出せ」 こちらが、本命であった。 主力部隊を基地内外のポイントに配置させ ヤーナの急襲に備えさせた。 基地への4つの入口のどれかに誘い込み 前後を挟み打ちにし殲滅させる作戦であった。
"いよいよじゃ・・・" ギルき、薄く笑みを浮かべた。

浩司は、A-2ポイントと呼ばれる出入り口の少し離れた大きな木の幹の後ろに、その姿を現した。
僅か数秒もかかっていない。
木の幹から顔を出し 周囲を注意深く観察した。 出入り口を守る武装した4人の警備兵以外だれもいないようであった。
周囲には、監視カメラが、数台あるのに気付いたが、全て出入り口付近を監視しているだけで、浩司のいる方向へカメラを向けていない。
しばらく様子を見ていると、山の1部が、大きくスライドした 中から大きな輸送ヘリが、数機 飛び出して行くのを確認した。
"こちらの罠に引っかかったと思わせる為の陽動だろう・・・" と浩司は思った。
"こんな単純な誘いに引っかかるはずはない 主力の本体 この基地内及び周辺部だろう・・・"
浩司は、ゆっくりと木の幹から姿を現し A-2ポイントの出入り口へ向かって歩き出した。
その姿を1人の兵士が気付くと、銃を向けた。
「動くな! そこで止まれ」
浩司は立ち止まった。
「両手を上げろ」 2人の警備兵は銃を向け、浩司に向かって小走りに近づいてきた。
「何者だ?」 近づいてきた1人の警備兵が聞いた。
浩司は、ゆっくりと両手を上げながら答えた。 「この顔 忘れたとは言わせないぜ」
「き・・・貴様 キャラン(浩司)」 警備兵の1人は、驚きの声を上げた。
「望み通り 来てやったぜ」 浩司は隙無く2人の警備兵の観察する。
「そのまま 動くな」1人の警備兵が、キャラン(浩司)に銃を突きつけ もう1人の警備兵が、キャラン(浩司)の左脇のショルダーホルスターからS&W M29 44magmunを真っ先に抜き取ると身体を丹念に調べ始めた 他に何も武器を所持していない様子である。
銃を突きつけているもう1人の兵士にサインを送る。
そのままキャラン(浩司)の両手を下に下ろさせると 身体の前で、超合金で出来た手錠をかけた。
「ついて来い」 1人の警備兵が顔を振った。
キャラン(浩司)は、そのまま基地内部へと連行される。

「君が噂に聞くキャラン(浩司)君かね・・・」
ギルは、2人の警備兵により連行された男をつぶさに観察した。 何度もモニター画面で見ていたが、実物を見るのは初めてであった。
目の前にいる男は、どう見ても平凡な男に過ぎない。 あのグロテノスを瞬時に倒す驚異的な戦闘能力を持つ人物にはとても見えない。
他だし この様な場所に連れて来られても オドオドしたところもなければ、逆に変に尊大な態度も取らない 自然体であった。
ギルは、その部分が妙に引っかかる思いであった。
"自信の表れか・・・" ギルはふっとそう思った。
「多分 そうらしい・・・」 まるで、他人事のようなぶらつきぼうのキャラン(浩司)の返事である。
ここは、基地内にある一画 全面には巨大なマルチスクリーンがある 間違いなく作戦本部である。 巨大なマルチスクリーンの前には、1人複数のデスプレイ画面置かれ 多数の担当者がデスプレイ画面に見ながらキーボードを操作している。 その後方の数m高くなった場所にあるギル専用司令所であった。
ギルは、専用の椅子から立ち上がると キャラン(浩司)の後ろにいた兵士の1人がギルに近づいた 右手には、キャラン(浩司)が所持していたS&W M29 44magmunを持っていた。
「ギル閣下 この者が所持していた武器です」 兵士はギルに、S&W M29 44magmunを手渡した。
ギルは受け取ると 丹念に調べ始めた。
「ほ・ほおー これは・・・ 君が、この様な武器・・・ それも随分とクラッシックなリボルバー かっては最強と言われた44口径の大型マグナム S&W M29 44magmunとはのうー 今なら50口径の更に強力なマグナム弾すらあるのにのうー 確かー・・・ デザートイーグル 50AEと呼ばれ最強のオートマチックやS&W M500 500S&Wマグナム弾の発射出来る最強のリボルバーすらあるのにのうー 並みの人間には扱う事の出来ぬバカげた程の強力な威力じゃが 所詮対人用・・・特に実戦には全く不向きじゃ 反動も大きく連射も利かぬこんな時代遅れの骨董品・・・ 他だしこの程度の威力では、私らネクストノイドには通用せんよ もっとも君達旧人類(ホモサピエンス・サピエンス)の持つテクノロジーによる通常兵器程度では役に立たんがのうー・・・・ その事は、君自身が1番よく知っているはずじゃが・・・ 君には、あのグロテノスを一瞬に消滅させる強力なエネルギー弾を撃つ能力を持つ君が、この様な武器を所持しているとはのう・・・」
ギルはS&W M29 44magnumを右手に持ち 銃口をキャラン(浩司)に向けた。
「人間が古くてね・・・」 キャラン(浩司)の返答であった。
瞬きせず、顔色一つ変えないキャラン(浩司)を見て ギルは小さな笑みを浮かべ銃口を下げた。
「大した度胸じゃのう 銃口を向けられても顔色一つ変えぬとはのう・・・」
「あんたがハンマーを引いて シングルアクションで構えず、トリガーに指をかけただけのダブルアクションで構えたからさ・・・」
キャラン(浩司)の返答であった。
少しでも銃の使い方を知っている人間には絶対犯さない初歩的な基本である。
最初から撃つ気がなく 試しただけだと思ったからであった。
ギルは、キャラン(浩司)の銃を近くテーブルの上に無造作に置くと 連れて来た2人の兵士を下がらせた。
「邪魔者は下がらせた これで2人 ゆっくり話しが出来るのう」 そう言いながらギルは、キャラン(浩司)の手錠に向かって右手を広げ目を閉じ精神を集中させた。
その瞬間 キャラン(浩司)の両手の手錠が外れ床へと落ちた。
"サイコキネシス(念動力)・・・・" ふっとキャラン(浩司)は思った。
超能力の1つで、思念だけで物体を動かす力である。 オカルト、神秘的な事に対して否定的なキャラン(浩司)には、にわかに信じがたい事であったが、自分自身ですらレジェンスとの融合で超能力の1種とでも言える驚異のエネルギーを使う事が出来る。
「君に手錠をかけても無意味じゃからのう・・・」 ギルは、横を向き下向きに顔を向け目を閉じた。
「ところで、本当に2人だけで話し合う気?」 キャラン(浩司)の質問に、ギルは少し驚いた表情を見せた。
"こやつ 気付いておるのか・・・"
キャラン(浩司)は両手を少しだけ上げ呆れたポーズを取った。 呆れた表情で、顔を小さく左右に振る。
「後ろで、透明化し 長い舌を向けているグウルスのお2人さん 姿を見せたら? そんなに殺気だっていていたらだれでも気付くぜ」
キャラン(浩司)は、連れて来た2人の兵士と交代で、透明化した2体のグウルスが後ろに張り付いたのを気付いていた。 1体は、過去1度叩きのめした事のあるグウルスである事も。
「ふんー さすがじゃのうー 気付いておったか・・・」 ギルは上を見上げ大声で笑い出した。 「下がれ」 一言で姿を表した2体のグウルスを下がらせた。
下がる時 過去キャラン(浩司)に叩きのめされた1体のグウルスは、キャラン(浩司)に対して、強烈な眼光で睨みつけた。
しかしキャラン(浩司)は、何食わぬ表情で受け流す。
"まだハイパー化してないが、前回よりかなり改造が加えられパワーアップいるなあー" ふっとそう思った。 この時点 キャラン(浩司)は、レジェンスのエネルギーを利用した戦闘モードに入っていない。
微妙な気配だけで気付いていた。 レジェンスとの融合が、キャラン(浩司)自身を変えてきている。 色々な感覚がより一掃鋭く研ぎ澄まされてきていた。 本人も薄々だが、何となく感じていた。
ギルは、コンソロールパネルのスイッチの1つを押した。
部屋全体がバリヤーによって遮断された。
「このバリヤーは、防音にもなっておる ここでの会話はだれにも聞かれん」
ギルは自分の椅子に座り直し足を組んだ
「君の事は、色々調べさせてもらったよー 君程の人物が、よく世にもでず、埋もれていたと思った程じゃよー 我が組織の誇る優秀な科学者、技術者ですら支持を得る程の優秀な頭脳・・・ 特に20世紀最高の物理学の双璧 アインシュタインの相対性理論と、未完成の量子論に関する独自解釈 大学すら入っておらず、それもかなりの低レベルの落ちこぼれ高校卒とはとても信じ難い事じゃよー」 ギルは、キャラン(浩司)の顔を覗き込んだ。 しかし表情1つ変えず 腕を組み立ったままである。
ギルは後ろのコンソールのキーを1つ押した。
キャラン(浩司)の立った位置の近くの床が2つに割れ下から1人掛け用の椅子が競り上がってきた。
「立ったままでは、話もやりにくだろうから その椅子に座りたまえ」
ギルは、キャラン(浩司)に椅子に座るよう促すが、警戒しているのか? 椅子に座ろうとしない。
「大丈夫じゃ 椅子に何ら仕掛けなどない」 その言葉にようやくキャラン(浩司)は、椅子に座った。
椅子には何ら仕掛けは無いようであった。 座り心地は普通の平凡な椅子である。
「まあー 今の日本では、君のような人物にとっては余り居心地の良い社会とは、言える状況ではなかろうー 全てが画一化され 階層、階級の固定化 全て最終学歴、会社名、その所属する会社内での地位でしか人物評価しか出来ず、それだけで、全てのランク付けする 全てブランドじゃ・・・ そう・・・超1流の大学、企業名のみで、自らを美しく着飾る事が・・・ 自らの努力と実力で、手にいれたものならば良いが、それですら親の人脈とは言えば聞こえが良いが、ようはコネ 全てコネ次第じゃ コネによって不正に合否が操作され、全てが決められる それを真の実力じゃと何を履き違えておるのやら・・・  そんな輩(やから)の作り上げ、支配するサラリーマン優越社会の現在の日本において、その正反対の真の実力主義、努力と自力、つまり自分1人の力で、何をやってのけたかに、重点を置く プロの職人の世界で、下からの叩き上げの職人気質と、典型的とでも言える1匹狼的な君のような人物に置いて、相容れない社会システムはずじゃ 典型的自営業者の家庭で育ったのが大きな原因じゃろうと、我が組織の精神分析医が言っておったがのう・・・ まあー君が所属したヤーナに置いても同じはずじゃ ヤーナと言え実質的に、C宗教が牛耳っておるじゃろう 幹部連の大半は、神学校や大卒のエリート揃いじゃ 君のような人物にとっては居ずらい場所のはずじゃが・・・」
ギルの話に、キャラン(浩司)は、何ら感銘も何も無かった。
他だ 呆れて聞いているだけであった。
別に反論する気も無かった。 全て事実である。
ギルは、またコンソールのキーを押した 2人の間の床が2つに割れ 下からテーブルが競りあがり テーブルの上には、2つグラスが置かれ 中に冷たいジュースが置かれていた。 ギルは、グラスの1つを手に取り一口飲んだ。
「わしの生まれ故郷の有名なフルーツジュースじゃよ 毒など入っておらんよ」
キャラン(浩司)もグラスを手に取り一口飲んだ、口全体に、フルーツの持つ独特のほのかな甘みと酸味が広がる。
「真の実力主義の中にいた君に取って、ヤーナより 我がアポリスの方が、より適した環境のはずじゃ ここは、実力のみじゃ 学歴、コネなど何ら意味も持たぬ 全ての自ら築き上げた実績のみじゃ」
ギルは、キャラン浩司)の顔を見るが、相変わらず無表情で、手と足を組んだままであった。
"こやつ何を考えておるのやら・・・" ギルは、キャラン(浩司)の考えを読みきれないでいた。
今のキャラン(浩司)には、こんな話などどうでもよかった。 今どのタイミングで行動を起し 派手などんちゃん騒ぎ そのどさくさ紛れて 最愛の恋人みなっちを含む 人質救出するか? だけであった 細かなプラン(作戦)無しで、相手の懐に飛び込んでしまった。 悪い言い方をすれば、行きあたりばったりである。 永井率いる救出部隊が、うまく連携してくれるかが、成功のキー(鍵)を握っていた。
"やはり・・・ 話しても無駄だと思える相手には、相手にせずかー・・・ 無理して相手に合わせない 他人に媚入らない・・・ わしも見くびられたものじゃのうー" ふっとギルは思った。
キャラン(浩司)の精神、性格などの細かな分析報告の中で、重要と思われる項目の中の1つである。
"やはり こやつをこちらに引き込むには、これしかあるまい・・・" ギルの取って、確かめてみたい情報でもあった。
「君が最初に、ここに現れる以前 アマチュアの研究家の1人に過ぎなかったはずじゃが、まあここは、1部UFOマニアに取って、古代ピラミッドの1つと言われ 古代宇宙人の秘密基地の1つとの関連が指摘されておる場所じゃ 調子に乗ったおのぼりの連中が、時々姿を現すがのう・・・ よく理由の解らん事ばかりしおる・・・ まあ君もその時点 そんな輩の1人と大して違わなかったはずじゃが、 だが何故? 警備兵に見つかり捕まりそうになった瞬間 突然姿が消え 数時間後 突然姿を現したと思ったら あの驚異の戦闘能力じゃ 改造を受けたネクストノイド以外不可能な エネルギー弾まで使用しおった。 何故? 短時間突然 そのような能力を身に着けたんじゃ そして、2体のグロテノスを倒した時 小声で発したレジェンス・・・」
キャラン(浩司)の表情の一瞬の変化を ギルは見逃さなかった。
そして、モスグリーンの迷彩色の戦闘服の下の黒のTシャツの下の金属のチェーンの先についている物も・・・
その物体に秘められた 無限と呼ぶべきか・・・ 得体の知れない 見た事も感じた事もない強力なエネルギーを ギルは感じ取っていた。
グロテノスなど比較にならない 強力なエネルギーを利用する デストロと呼ばれる8大将軍の中でも サイコキネシス(念動力)などのある種の超能力の使い手であるギルだからこそ そのエネルギーを感じ取る事が出来た。
8大将軍デストロ最初の対戦相手であった龍(ロン)は、炎の使い手である。 だが龍(ロン)を始め他の7人の8大将軍には、この能力はない。
ギルと最高位であるアピリムだけが感じる事の出来る 特殊能力であった。
"やはり こやつ そうじゃったか・・・" ギルは、確信にいたった。
キャラン(浩司)が、驚異の戦闘能力を持って以来 アピリムとギルしか入場が許されない地底奥深くの最地下層にある最高機密室で、ギルは、レジェンスについて再調査していた。 エルの残したデータの中で、今までアクセス拒否だったデータの1部が、突然アクセス可能となり アクセス可能となったデータ全てが、レジェンスに関する事であった。
それでもレジェンスに関する全データが、アクセス可能となった理由ではなかったが、だがかなり詳しく調べ上げる事が出来た。
それはまさしく驚異のエネルギー体と一口で言えるようななまやさしい物ではなかった。
量子論の"無" 原因は不明だが、全多重宇宙を生み出し続ける全ての始まりである"無"が、"無"を生み出し2つの球体に分離した 1つは白い球体のホワイトレジェン もう1つは黒い球体のブラックレジェンと呼ばれる。 無数の状態が同時に共存している状態、つまり無限のエネルギー持ち非常に不安定で、何も確定されていない状態 エネルギーとは、アルバート・アインシュタイン博士の特殊、一般相対性理論の基本である 物理学史上最もシンプルで美しい方程式 E=mc2で表せる つまり質量(m)に対して光速(c)の2乗倍が、本来持つポテンシャルエネルギーの上限値である つまりエネルギーは、質量(m)に対して上限値は、決定されている。 しかし全てを生み出した"無"は、エネルギーの上限値が無い 非常に高く不安定・・・いや何も確定されていない状態だ。
我々人類の改造主である エルと呼ばれる宇宙人が、生体兵器としてのネクストノイドを作り出す為 前の種であるホモサピエンスのDNAなどを改造し ネクストノイドの素体ベースとなるホモサピエンス・サピエンスを作り出した。
武器などのエネルギー供給源として、このレジェンスを人工的に作り出そうした過程で、偶然に出来たのが、4次元ワームホールを発生させ多重宇宙の1つの超高エネルギー状態の宇宙と常時繋ぐ このネクスタルである。
だが エルの誇るテクノロジーですら、人工的にレジェンスを生み出す事は不可能であった。
"無" を生み出すが事が出来なかった。 同時に無数の状態を共存させ、どの状態になるか決める事の出来ない状態を・・・
「やはり 君はレジェンスの1つと融合しておったか?」 ギルは直入で聞いた。
「さあーねー そのレジェンスって、いったい何?」 キャラン(浩司)は、とぼけた答えを返した。
そんなキャラン(浩司)を見て、ギルは小さく笑った。 「とぼけても無駄じゃよ」
ギルはコンソールのボタンの1つを押す ギルの後ろに、立体映像が現れた。
そこには、過去のキャラン(浩司)の戦闘シーンが映し出された。
「これが、今までの君の戦闘記録じゃよ この映像からは、何も解らん 他だしじゃ・・・」 ギルは、1度 間を置いた。
「映像に、ある特殊な処置を施すとじゃ」 ギルは、コンソールのボタンの1つを押した。
するとキャラン(浩司)の身体全体から 淡く白い光が発光しているのが、はっきと映し出された。
「決して肉眼などでは、見る事の出来ぬ 不思議な光じゃ だがこれこそが証拠じゃよ この淡く白い光こそ レジェンスの1つホワイトレジェンの融合者が、特殊な能力を使用する時に発するホワイトレジェンのエネルギーの光じゃよ」
キャラン(浩司)自身 戦闘モードに入ると、レジェンスからのエネルギーが身体を駆け巡るっていたが、まさか?自身 淡く白い光を発光しているのには、気付いていなかった。
「そして、君の首からぶら下げられているペンダントの先にある物 それがレジェンスの1つホワイトレジェンだよ」
確信に満ちた口調でギルは言った。
「無限のエネルギーとは良く言ったものじゃよー」 ギルは話を続けた。
「上限値が無い分 コントロールも不能じゃ 君の戦闘が、常に不安定なのもそこが原因じゃのうー 常にエネルギーが、激しく変動する為 安定したエネルギー供給による戦いが出来ん・・・」
ギルは一息つき キャラン(浩司)の顔を覗った。 何ら表情を変えない。
ギルは少し話題を変えた。
「ところで、わしらネクストノイドと君は、ある意味で似た者同士、仲間じゃと思わんかねー」
ギルは、いよいよ本題に入った。
「わしらネクストノイドは、君も知ってのとおり 人工的とは言え、旧人類(ホモサピエンス・サピエンス)から進化したニュータイプとでも呼べる 新種の人類じゃ DNAを始めあらゆる物が異なっておる。 君も同じはずじゃ・・・ レジェンスと呼ばれる無限のエネルギー体と融合 もはや旧人類(ホモサピエンス・サピエンス)とは言えぬはず 特殊能力を持つ別タイプの人類・・・ 君もなあー・・・ レジェンスとの融合が、君自身を変えてきているはずじゃ 君を構成している全ての量子が、レジェンスからのエネルギーによって、別物としか呼べぬ状態に変化してきているはずじゃ 外観など何も変化していなくてもなあ そして、君も、わしらネクストノイドも もはや元の身体には戻れぬ・・・」
ギルは、キャラン(浩司)を正面から見た。
キャラン(浩司)は、何も答えなかった ただ黙ってギルの話を聞いていた。
キャラン(浩司)自身 何となくだが、この事に気付いていた。 レジェンスとの融合によって、もはや元の身体に戻れない事 そして、レジェンスが、気まぐれによって、融合を解除した時来るのは、死 自分自身の全ての消滅 無への転換である事も・・・
「どうじゃ わしらと手を組まぬか? 君も気付いておるはずじゃ この腐りきった人間社会を・・・ 変えようとは思わぬか? このままでは地球そのものが持たぬ、遠くない将来 この地球が、やつら旧人類(ホモサピエンス・サピエンス)によって、全てが食い尽くされてしまうじゃろう・・・ 残るは、生命の存在しない死の星じゃよ そうは思わぬかね」 ギルは立ち上がった。
「わしらの目的は、この地球の再生じゃよ その元凶である 旧人類(ホモサピエンス・サピエンス)を 我々ネクストノイドへ進化させ 自然との調和の取れた 元通りの 生命に満ち溢れた地球環境を再生させる事じゃよ わしらの持つテクノロジーを利用すれば、可能じゃ これこそが、ネクストノイドにおける輝ける未来じゃ」
"うわつらの綺麗ごと・・・" キャラン(浩司)は、そう思った。
まさかこの程度の綺麗ごとの為に、強力な生体兵器としてのネクストノイドを開発をする必然など全く無い 目的は、全く別にあるはずとだと思った。
"もし本当の話ならば、ネクストノイド開発の前に、エルと呼ばれる神々=EBE's(イーバーズ=地球圏外知的生命体)の驚異のオーバーテクノロジーを利用し 地球環境の再生に取り組んでいるはず・・・ 兵器としてのネクストノイドの開発こそ 環境破壊の骨頂の1つだよ・・・" と呆れて思った。 皮肉家しての頭脳が活発に活動していた。 本領発揮である。
「君達 旧人類・・・いやホモサピエンス・サピエンスは、もはや進化に行き詰まっておる事は、君も薄々気付いておるはずじゃ 元々進化すべき方向・・・ いやエルと呼ばれる宇宙人達・・・ 君の言い方をすればEBE's(イーバーズ=地球圏外知的生命体)じゃが、エルによって改造され進むべき進化の最終形態こそが、我々ネクストノイドじゃ・・・ 進化に行き詰まった旧人類(ホモサピエンス・サピエンス)は、自らの自滅を感じ取っているのだろうー その証拠として、現在の人口爆発じゃ その道ずれとして、事もあろうか? この母なる星 地球の環境を破壊し そして他の生物種まで滅亡に追いやっておる そんな人類の唯一の救済方法は、君もネット上でも公表しておる 宇宙進出による 中長期無重力状態などに対応出来るスペースノイド、もしくは、アストロノイドへの人工進化じゃが、我々ネクストノイドこそ 君の言うスペースノイド、もしくは、アストロノイドじゃよ DNAに他の生命の改良を加えたDNAを加え あらゆる環境に対応可能な生命体へとなれる これこそ人類の最終形態の進化じゃよ 素晴らしいと思わんかね・・・」
"最終形態の進化・・・" キャラン(浩司)は、この言葉に呆れた。
人類が進むべき進化の行き着く先の完成形・・・いや違う 進化とは、環境が急激に変化、異なった時 その淘汰時に、その急激に変化、異なった環境に対応、適応出来る形態を持ちえているか? 否かだ。
まして最終形態の進化など、進化の終局を意味する。
もうこれ以上進化が望めない状態でしかない。
残された進むべき道は、破滅、滅亡だ。
"常に、環境の急激な変化、異なった時に備え 多種多様化し分化したタイプを生み続ける事こそ進化・・・" キャラン(浩司)は、そう思った。
"ネクストノイドは、その1形態に過ぎない。 人工的ではあるが・・・"
"進化に完成形にど存在しない・・・"  キャラン(浩司)は、そう思った。
そんな時だった ある警告音が、なり響き出した。
「ギル閣下」 オペレターの声が飛んだ。
「何事じゃ?」 話を中断され、やや不機嫌そうにギルは聞いた。
「N-23 W-06ポイントに置いて、ヤーナ側との交戦が始まりました」
この瞬間 ヤーナVSアポリスの両勢力による最初の本格戦闘の幕が切って落とされた。
地球、人類の未来を賭けての壮絶、辛らつを極めた戦いが始まった。

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