LEJENS  レジェンス

 LEJENS以外のSF小説です。
 LEJENSとは全く無関係のオリジナル小説です。
 この小説は、I LOVE YOU-COMPANY社と契約した歳 書き下ろしたサンプル用のオリジナル小説です。
 その後 新企画が思いつき オムニバス方式のシリーズ化決定 その第1弾と位置づけた作品を I LOVE YOU COMPANY社 主宰のManiac-1グランプリの参加、出展用に修正 投稿後 更に、思いついた事を加え修正しました。

 宇宙開発開拓シリーズ 第1弾

 ワームホール   (修正版)

 作者  飛葉 凌 (RYO HIBA)



 いよいよこの日が来た。
 人類に取って、待ち望んでいた長年の夢のテクノロジー。
 福音をもたらす偉大な成功、輝ける未来への第1歩となるか? 後世への教訓、偉大なる失敗となるか?
 だれも解からない。
 人類の夢、未来、命運を賭けた まだ1部の人しか知らされていない超極秘実験が、今 まさにこの瞬間行われようとしている。
 量子論、量子重力論と、アインシュタイン博士の 特殊、一般相対性理論の組み合わせによる 3次元ワームホールを人工的に発生させ通り抜ける。
 つまりワープ航法の人類史上初の有人機を使った実験である。
 時空間に、虚無の特殊なエネルギーを加える事により特殊な穴 つまりワームホールが開かれる。
 時空間のあるポイントから別の離れたポイントへと直結する時空間領域で、トンネルのような抜け道だ。
 その開かれたトンネル つまり3次元ワームホールを抜ける事により 別の場所 数光年以上先に、瞬時にワープ出来る。

 この時代 ワープ機関の開発は、緊急的課題として、今すぐにでも実用化に迫られていた。
 もはや人類は、危機的状況に置かれており残された時間は、僅か・・・
 人類滅亡の危機。
 ロウソクの最後に大きく燃え上がる炎のように、この時代 人口が大爆発 急激に増加していた。
 20世紀後半から続く人口の大爆発的増加 地球の持つ本来のキャパシティーを悠に超え増え続ける人口 大爆発的に増え続ける人類の生存圏拡大の為 地球外に、新たな生存可能な居住地を求め 太陽系内の居住可能な惑星、衛星へと進出 植民が行われ 太陽を周回する地球軌道上には、多数のスペースコロニーが作られたが、人口の大爆発的増加、それに伴い大量に消費され減り続ける資源などの様々な問題が続出、もはや限界に達していた。
 地球でも、21世紀前半 21世紀最有望資源と思われていたメタンハイドレート。
 天然地下資源に乏しく、自国の領海内の深海で、埋蔵量が、世界最大の日本が、まず世界に先駆け、世界最高水準、最先端の高度テクノロジーを駆使 開発に着手 その後アメリカ合衆国、シベリアの永久凍土にも埋蔵されており 開発が、深海に比べ容易なロシアも続いたが、1部科学者などが、懸念していた問題が、発生した。
 特に、日本では、21世紀前半 北アメリカプレートと、、その下部に沈み込んでいる太平洋プレートの沈み込み型と呼ばれる境界線上 丁度日本海溝を震源とする 東北地方を襲った歴史上、史上稀に見るM(マグニチュード)9,0を記録した巨大地震により 1部原子力発電所が壊滅 周囲数十kmに渡り 危険な放射性物質を拡散させる大事故が発生 元々核に対するアレルギーが強い国民性も有 全ての原子力発電を停止 後に廃止 日本国内の全電力の33〜36%の電力を原子力発電に依存しており 代替の再生可能な太陽光や、風力などの自然エネルギーを利用した発電では、不足分をとても補え切れず、原子力に替わる代替エネルギー開発が急務であった。
 そこで眼を付けたのが、世界最大規模の埋蔵量を誇るメタンハイドレート。
 世界に先駆け率先して、開発に着手。
 だか、これが、最悪の結果をもたらすとは、この開発に、反対し危険性を警告した1部科学者などを除き だれも予想していなかった。
 地球で、生命誕生後 最低6回は、起こったされる 生命の大量絶滅の中でも最大級とされる 今から約2億5000万年前 ペルム紀末(以前は、二畳紀と呼ばれていた)からトリアス紀(三畳紀)に切り替わる P-T境界と呼ばれる地層年代に起きた ペルム紀末の大量絶滅(全生物種の約90〜95%と滅亡したとされる)が、再現された。 地質年代上 古生代から中生代に切り替わる時期 地球の歴史上最大級と言われる、巨大なマントルの上昇流であるスーパーホットプルームが原因と考えられる、複数の火山の同時大爆発である。 その証拠は、シベリア洪水玄武岩と呼ばれる火山岩が広い範囲に残されている。 そのエネルギー量はすさまじく、マグマや噴煙は成層圏まで達したと言われ その後 短時間で、極端な環境変化が起こった。
 この時 現在のアイスランド沖にあった 深海のメタンハイドレートが、大量に気化 発生したメタンガス(CO2=二酸化炭素の20倍以上の温室効果をもたらす)により、更に、加速的に温室効果が促進されるという悪循環が発生。
 ペルム紀末(二畳紀)末 30%以上あった大気の酸素濃度が、トリアス紀(三畳紀)初頭には、10%以下までに減少 低酸素時代の幕開けでもあった。 他にも火山から発生した大量のCO2(二酸化炭素)の放出による温室効果 つまり急激な温暖化など様々な要因があるが、短時間で今までとは、別の環境に極端に変化をしてしまった。 この時 低酸素などの極端な環境変化に、適応できた恐竜の祖先が、後の大繁栄の基礎になったと言われている。
 だが、この時代の原因は、巨大なマントルの上昇流であるスーパーホットプルームが原因ではなく 無謀と思えるメタンハイドレートの開発、採掘であった。
 日本、アメリカ合衆国、ロシアなどの開発、採掘現場でも 開発、採掘に伴うメタンハイドレートの大量気化が、大規模大崩落に伴う事故で発生 それが、現在まで、世界各地のメタンハイドレートの埋蔵地帯に拡散しながら続き、その結果 当時から問題になっていた地球の温暖化(主な原因は、産業の発展に伴う 化石燃料 石油、石炭などの大量消費によるCO2(二酸化炭素)の放出が原因)が、更に促進され 食料の生産など、大打撃を受け 更に、人類に取っても 生存不可能な環境へと、短時間で、加速度的に促進が進んでいた。
 この状況が続けば、大爆発的増え続ける人類を支え続ける事が出来ない。
 人類間の醜い争い(戦争)は、この時代まで、終焉する事もなく 残り少ない資源、居住地などを求め続き、日を追うことに激しさを増し 泥沼の危機的状況が、悪化の一途を辿っていた。
 この時代 テラフォーミング(惑星、衛星改造)のテクノロジーは、まだ確立されておらず、大爆発的に増え続ける人類を支え続ける為 居住可能な月、火星、土星の衛星タイタンなどに植民しても 大気の諸成分などの様々な問題で、狭く閉ざされたドーム内での不自由な生活を強いられ、収容人員にも限度があり 重力の問題も何ら解決の糸口を掴めずにいた。
 地球の重力を基準とする1G だか、他の惑星、衛星では、異なる 地球の衛星月では、地球の約1/6しかない。
 僅かな重力の違い、地球より重力が少ない場合を例に取っても、骨密度の低下、筋力の低下を招くなど人体に与える影響は、計り知れない。
 その為には、人工重力の開発は、急務である。
 スペースコロニーで利用されている遠心力を利用した疑似人工重力は、地球外の惑星、衛星では不可能。
 スペースコロニーの建設も 小さなスペースコロニー1基建設するのにも 膨大な時間と、資金と、資源などを必要とし 大爆発的に増え続ける人口増加に、とても追いつかない。
 多数の人類の居住可能な新たな第2、第3・・・・の地球を求め 地球を含む太陽系もその1部である直径約10万光年もの広大なニューフロンティア 銀河系内へ生存圏の拡大を求め進出し 新たなコロニー(植民地惑星、衛星)への植民を 今すぐにでも行う必要に迫られていた。
 この銀河系内でも、無数の恒星が存在し、その周囲には、更に多くの惑星、準惑星、衛星、有望な資源が豊富と思われるアステロイドベルト(小惑星帯)から成り立つ太陽系(恒星系)が無数に存在する。 その中には、人類が、生存、居住可能な惑星、準惑星、衛星が、必ずある。
 人類の生存圏を 太陽系から銀河系へと拡大し、居住可能な惑星、準惑星、衛星を この広大な銀河系内に求め 今すぐにでも実施に移さなければならない緊急課題であった。
 人類が、生存、存続し生き残っていく為に。
 だが、残された時間は、僅か。
 その為の人類の未来と、命運と、生き残りを掛けた実験。
 この実験が、失敗すれば、残された時間から考えると、人口の大爆発的増加により 自ら絶滅の危機に瀕する。

 人類最高の英知と称せられる、科学者、工学技術者などの総力を挙げたプロジェクトにより 夢のワープ機関が完成 コンピューター・シュミレーションが、何度も行われ、無人実験機による予備実験を繰り返し 何度もの失敗、挫折の末 ようやく完成にこぎつけた。
 だが、開発が、決して順風満帆に進んだ理由ではなかった。
 この実験を嗅ぎつけた複数の敵対する国々の数々の激しいスパイ合戦、妨害、破壊工作・・・
 自分達だけが、生き残る為の 卑しいエゴ剥き出しによる醜い争い。
 数々の謀略、陰謀・・・
 このテクノロジーを手に出来れば、生き残れる可能性を秘めている。

 開発したワープ機関によりワームホールを人工的に発生させる。
 ワームホールとは、まさに虫食い穴。
 時空間に、リンゴや衣類などの虫食い穴の様な穴を人工的に開け 距離と言う障壁を 瞬時に通り抜ける。

 非常に微細な世界にある粒子が、古典的には乗り越える事の出来ないポテンシャル・エネルギーの障壁を 量子効果すなわち、時間とエネルギーとの不確定性原理により乗り越えてしまう(透過してしまう)現象 量子トンネル効果である。
 この量子トンネル効果を時空間に応用 距離と言う 古典的には、距離に比例し移動に時間が必要とする障壁を 量子効果すなわち時間とエネルギーとの不確定性原理を利用し 瞬時に 乗り越えてしまう(透過してしまう) もしくは、移動する。
 ワープの基本理論で、この時 乗り越えてしまう(透過してしまう)特殊な領域 まさにトンネルを 3次元ワームホールと呼ぶ。
 ワームホール計量(metric) 通過可能なワームホールの一例としての方程式が以下である。
 ds2=-c2dt2+dl2+(k2+l2) (dθ2+sin2θdφ2)
 机上理論上 ワープは、可能。
 更に、3次元ワームホールの応用の4次元ワームホールを利用すれば、我々の住むキューブ状に表す事の出来る3次元宇宙の連続体である4次元宇宙時空間内での別の時空間への移動 つまりタイムトラベルも可能であり 更に、無数に存在し共存する多重宇宙・・・ 我々の住む宇宙以外の異なる物理法則の支配する別宇宙への移動 0(ゼロ)次元から11次元以上存在すると言われる別次元 つまり5次元、6次元・・・への移動も可能と言われている。
 実は、この宇宙の時空間には、素粒子より更に極小のワームホールが、無数の虫食い穴のように存在している可能性が指摘されている。
 異なる物理法則が支配する多重宇宙の別宇宙、親宇宙とワームホールによって繋がっている無数に存在する子宇宙、孫宇宙・・・・ 同宇宙の異なる時間帯 つまり過去や未来へのタイムトラベル・・・・ など様々で色々な別宇宙と繋がっている可能性がある。

 実際 宇宙を構成する4つの力(エネルギー) つまり4つの基本相互作用(宇宙誕生直後から10-43(10の-(マイナス)43乗)秒(プランク時間)後まで、つまりプランク時代は、分離しておらず統一の相互作用(統一場理論)だったと考えられており 現在統一理論(統一場理論=万物の理論)の構築が試みられている)である グルーオン(強い相互作用)、ウィークポソン(弱い相互作用)、光子(フォトン、電磁気力)、重力子(グラビトン、重力)の中で、重力だけが異常に弱く 理論値よりも16ケタも低いのは、この量子トンネル効果 もしくは、時空間に無数に存在する可能性のあるワームホールを通り抜ける事により 重力が、5次元の世界へ通り抜けている可能性が指摘されている。
 (リサ・ランドール ハーバード大教授著書 “ワープする宇宙―5次元時空の謎を解く” を参考)

 重力が、理論値より16ケタも低い為 この宇宙の終焉は、重力の大きさが勝り、やがて反転収縮に向かうビッククランチを起す宇宙ではなく、現在の最新仮説では、やがて宇宙の膨張速度が、ド・ジッター宇宙的加速膨張速度以上のペースで加速され、この強力な加速膨張により、生命、惑星、恒星などを含む全ての物質の物理的構造を形成している原子核 原子核を構成しているクォーク(素粒子)同士を結び付けているグルーオン(強い相互作用)をも引き裂き、全ての物質は、クォーク(素粒子)までバラバラになってしまうと言う。
 加速膨張のブレーキの役割を果たしていた重力 強力な重力によって形成されている銀河系、更に巨大なバブル構造上に存在する超銀河団も それらを形成している恒星、惑星、衛星なども クォーク(素粒子)までバラバラとなり 重力まで失う。 重力まで失った宇宙は、永遠に加速しながらお互いから遠ざかるクォーク(素粒子)だけの宇宙になってしまうと言う それが起こるのが今から約500億年後で、その後50億年後には、我々の住む銀河系まで影響が及び、素粒子までバラバラになると言う ビッグリップ仮説がある。

 光の速度では、例え10光年先でも 10年もの時間を費やしてしまう。
 光の速度でも 約30万km/sec(秒)しかない。
 我々の住む銀河系ですら直径約10万光年もある。
 1番近い別銀河系であるアンドロメダ銀河までだと約230万光年。
 この宇宙の大きさは、有限なのか、無限なのか、まだ解っていないが、宇宙誕生以前 そこは、時間も空間も物質もエネルギーも存在しない 無の世界 何も存在せず、永遠に何も生まれないように思われる世界であったが、量子論では、非常に短い時間の中では時間や空間やエネルギーが1つの値をとりえず、たえずゆらいでいることを明らかにしている。 このゆらいだ “無” から、真空エネルギーが高い状態にある超ミクロ宇宙が「トンネル効果」によって突然誕生する事を示している。 トンネル効果によって生まれた宇宙の直径が10-34{10の-(マイナス)34乗}cmしかない、素粒子よりも小さな超ミクロ宇宙だった。
突然トンネル効果により 素粒子よりも遥かに小さく高い真空エネルギーを持つ超ミクロ宇宙が誕生し 高い真空エネルギーは、アインシュタイン博士の宇宙項と同様 斥力(せきりょく)となって 空間を急膨張させる。
 これが宇宙のインフレーションであり 1秒にも満たない 10-36{{10の-(マイナス)36乗}/sec(秒)のわずかな時間で1000億光年以上に急膨張させる。
これが、アレキサンダー・ビレンキン博士の 無からの宇宙創世論であり その後 真空が相転移する際、このエネルギーは、光と熱エネルギーとなって一挙に解放される。 こうして相転移後の宇宙は光と熱エネルギーに満ちた火の玉になる。 これが、従来考えられていた “ビックバン(大爆発)”; まさに宇宙誕生の瞬間である。
 つまりこの宇宙の大きさは、1000億光年を大幅に超えており 現在もアインシュタイン博士の宇宙項と同様 斥力(せきりょく)となって 光速を超える速度で、宇宙空間を膨張させている。

 我々の住む太陽系に、1番近いとされる恒星のケンタウルス座アルファ星でさえ約4.37光年もの距離にある。
 光の速度で移動しても約4.37年もの時間を費やしてしまう。
 光速に近いスピードを出せる宇宙船を開発しても 光の速度に近づいた宇宙船は、アインシュタイン博士の特殊、一般相対性理論による 時間のパラドックス、もしくは双子のパラドックス効果(ウラシマ効果とも呼ばれる)により 静止系と比べ、相対的に時間の流れが遅くなるのだが、実際宇宙船が光の速度に到達するのは不可能で、無限に光の速度に近づくのが限度である。
 どんな物質でも光以外 光の速度に到達する事も 更に越える事も不可能とされており それを元に、現在の宇宙物理学の基礎の一角を担うアインシュタイン博士の特殊、一般相対性理論が、構築されている。
 光に対して、相対的に理論が構築されている。
 だが、21世紀前半 ミューニュートリノが、光速を超えていると言う実験結果が得られ 何度も精度を高めた再実験の結果 やはり光速を超えていると言う結果が得られたが、疑問が完全に解消したわけではなく、更に精度を高めた再実験が繰り返されている。
 もしミューニュートリノが、光速を超えていた場合 アインシュタイン博士の 特殊、一般相対性理論は崩壊し 物理学上大問題が生じる。 新たな理論の構築を余儀なくされ 新たな理論を構築し まだ未完成の量子論と統一を図らなければならない。
 アインシュタイン博士の特殊、一般相対性理論の基本の1つ 有名な方程式であるE=mc2(2乗) Eは、エネルギー、mは、質量、cは、光速を表しているのだが、 どんな物質でも光以外 光の速度に到達する事も 更に越える事も不可能 光の速度を超えている物質は、存在しない・・・が、前提条件。
 前提条件の崩壊は、理論そのものの崩壊を意味する。

 もしミューニュートリノが、光速を超えていた場合 光速を超えているミューニュートリノを基準とした前提条件で、新たな理論を構築 ミューニュートリノを利用した タキオン(超光速粒子 空想上の光速を超えているとされる粒子)エンジンの開発もあるのだが・・・
 まだ完全に、ミューニュートリノの光速を超えていると、実証されていない。

 我々の住む太陽系外 この銀河系内に進出 更に、新たな居住可能な惑星、衛星への植民をするには、距離と、時間が問題である。
 その解決方法として、SF界お得意の 瞬時に、別の場所へ移動出来るワープ航法が、必要不可欠であった。
 光速では、この銀河系内にある別の惑星などに移動するにも時間がかかり過ぎる。
 それには、量子トンネル効果を利用した3次元ワームホールが、最も現実的実現可能な理論であった。

 今日 これから初めての有人機を使用した実験が行われる。
 その名誉ある第1号のパイロットに選ばれたのが、宇宙軍所属のエリートテストパイロット フォッカー少佐であった。
 年齢は、28歳 ちょっとニヒルな伊達男で、プレイボーイとしても有名であり その戦績は、宇宙軍随一と自ら豪語している。
 何事にも屈しない豪胆さが売り物のフォッカー少佐も この日ばかりは、緊張の色を隠せないでいた。
 コンピューター・シュミレーション、無人機の実験では 何ら問題が見つかっていない。
 だが、ワームホールへの突入後 ワームホール内での人体に対する影響、特に精神面での影響は、コンピューター・シュミレーション、無人機による実験ではデータ化する事が出来ない。
 有人機による実験でしか知り得ない貴重なデータである。
 何度もコンピューター・シュミレーション、無人機によるデータでは、無人機の周囲に電磁場を利用したバリヤーに包み込む事により 機体、人体に対して、何ら影響を及ぼさないと言う結果が出ていた。
 しかし 未知の領域であるワームホール内での精神面に及ぼす影響については、全く未知数。

 「どうだね フォッカー少佐 今の気分は?」
 正面下のモニター画面の1部に、上官である林崎准将の顔が映し出された。
 軍人らしく短く切り上げられたヘアースタイル。
 もはや半分以上は、白髪に占領されている。
 何度もの宇宙空間での戦闘を経験。
 鋭い眼光と、額に刻まれた深いしわが、その苦労を物語っている。
 宇宙軍が指揮するこの計画の最高責任者でもある。
 バイザーを降ろしたヘルメット越しに、「気分は最高ですよ、それより成功時の約束 忘れていませんですよね?」
 不安感を打ち消すよう ちょっとにやけた陽気の声を上げる。
 その表情、声を聞き 林崎准将は、少し苦笑いを浮かべる。
 成功時には、多数の美女との成功パーティ・・・ いやハーレムパーティだなあーあれは・・・ を開く約束が含まれていた。
 もちろん パーティ終了後 何人もの美女と、ベッドの上で、甘い成功の2次会を行う予定でいるのだろう・・・
 この男は、名誉や、勲章よりも そちらの方が重要だと思っている。
 それが、人類の生存、存続、命運をかけた実験であっても同じだ。
 この男に、敵うパイロットは、他に存在しない。 宇宙軍随一のエースパイロットである事を疑う者はだれもいない。
 問題は、無類の女好きである事。
 「英雄 色を好むか・・・」 林崎准将は、苦笑いを浮かべながらつぶやいた。
 この男 フォッカー少佐には、上昇心などと言う野心が余り持ち合わせてはいない。
 政治家などの権力者に、取り入ってもらい上を目指す・・・など この男の興味を示さない。
 この男には、だれもが欲してやまない政治権力などほとんど興味を示さない 全く無いとは思えないが・・・ 権力を手に入れる・・・などの野心があまり見受けられない。
 あるのは、多数の美女とのベッドでの戦績。

 ワープ機関が搭載されたのは、中型の航空宇宙機。
 これより小型機には、虚無の特殊なエネルギーを生み出す為の動力源を設置するスペースがなかった。
 全長30mクラス デルタタイプ(三角翼型)の主翼のフォルムを持つ航空戦闘機タイプ 20世紀後半から21世紀前半に使用されていたスペースシャトルに似ていた。
 コックピットを除いて、全て各種データを得る為のセンサーなどが設置されており コックピット内も非常に狭い あらゆる計器、各種データが表示されるモニター画面などが所狭しと、機能的に並べられている。
 パイロットと言え 他だの機械を操作する為の部品の1つ・・・ と言わんばかりに感じられる。
 それを見ながらもフォッカー少佐は、脳裏には、ある嫌な噂話を思い出されずにいられなかった。
 有人機による実験の前 モルモットを使った実験が密かに行われ その中のいくつかの実験で、信じられない結末があったと言う噂話であった。
 それは、20世紀中盤 第2次世界大戦と歴史に記される 地球規模の大きな多国間戦争で、当時アメリカ合衆国が、海軍艦艇にレーダーに対して不可視化する装置(ステルス装置)を開発中の実験で起きた悲劇と同じ結果が起こったと言う。
 フィラデルフィア・エクスペリメント(Philadelphia Experiment = フィラデルフィア計画)と呼ばれる 信憑性に疑問を持たれる実験であった。
 正式名称 レインボー・プロジェクト
 (最も典型的なトンデモ系 疑似科学の1つとも言われている)
 実験用モルモットを搭乗させ 何度か行われた超短距離ワープの極秘実験 全て成功していたが、実験機内を調べた所 実験機内に搭乗していたモルモットの体が機体に溶け込んだり、身体の大部分が、機体の金属と同化したモルモット 半身だけ透明になったり、壁の中に吸い込まれたり・・・ などあらゆる惨劇が、起こっていたと言う・・・
 原因は、ワームホールに突入の際 つまりワープイン後 ワームホール内で、1度全ての物質は、量子状態まで変換され 量子トンネル効果で、ワープ ワープアウトポイントで、再構築される歳 何らかの異常で、元通り再構築されなかった為・・・ などと噂されていた。
 ワームホールに突入の時 量子状態への変換を防ぐ為 電磁場を利用した バリヤーを開発 バリヤーによって、身体、機体を守る方法が採用されたと、噂されていた。
 地球を守る 磁場線による磁気シールドと同じ原理である。
 北極のN極と、南極のS極による磁場線によって、太陽や、太陽系外から届く太陽風などの有害な陽子、電子からなる放射線を防いでいる。
 その為 地球の周囲には、バン・アレン帯と呼ばれる 陽子、電子からなる2重構造の高密度の放射線帯が存在するのだが・・・
 ;嫌な話だぜ・・・ フォッカー少佐は、頭を少し左右に振り 嫌な噂話を脳裏から振り払おうとする。
 その後 バリヤーを張った実験でも モルモルッの体には、何ら異常をきたさなかったものの 何体かのモルモットに、精神の異常を示す行動があった・・・ ワームホール内の虚無の領域では 精神が耐えられず、崩壊すると噂が流れていた。
 全くの未知の領域である。
 手探りの状態であった。
 出所不明のホラー紛いの噂が絶えず流れ続けている。
 その為か? テストパイロットへの志願者は、ほとんど集まらず、ようやく集まったテストパイロット希望者も 肉体の訓練の厳しさには、耐え抜いても 特に、あらゆる想定での 厳しい精神面での訓練に耐えられず、脱落者が続出した。
 そこで白羽の矢が立ったのはフォッカー大尉(当時階級は、大尉であった) 何と言っても怖いもの知らず 戦闘用航空宇宙機をオモチャの如く扱い アクロバット飛行などお手の物。
 特に、精神面のタフさはスバ抜けていた。
 「ちょっと 待って下さい・・・ この俺が・・・ いや失礼しました 小官が 何故 例の実験のテストパイロットなんですか?」 フォッカー当時大尉は、腰を上げ デスクに座る目の前の林崎准将を睨んだ。
 両手でデスクを叩く 任務、命令と言え こんな話し 到底受け入れられない。
 「フォッカー大尉 君以外 適任はいない」 毅然とした態度で、両腕を組む林崎准将。
 ここで、フォッカー大尉の過去の経歴、戦績などが読み上げられた。
 宇宙軍士官学校卒業後 実戦部隊に配属 数々の武勲と同様 上官とのトラブル 何度もの営倉入り・・・
 「どうせ 小官は、トラブルメーカーですよ・・・」 皮肉まじりに言うフォッカー大尉。
 成功時に、昇進を含む数々の好条件を提示しても憮然とした態度で、納得出来ない表情を浮かべるフォッカー大尉。
 だが、この男以外 この任務を遂行出来る人材はいない。
 この男は、どんな危険を伴う任務でも、1度決めたら とことん最後までやり抜く本物のプロ根性を持っている。
 何としても口説き落とさなければ、この実験の成功はない。
 押し問答が暫く続いた後 フォッカー大尉は、ある条件を出した。
 成功後 例の多数の美女とのパーティの件であった。
 こんなバカげた条件であったが、林崎准将は承認した。
 どんな名誉や 勲章よりも 美女と甘い一夜を過ごす事の方が 重要だと思っている。
 政財界、軍部のお偉い様の集まる成功祝賀パーティなど眼中にない。

 「フォッカー少佐 カウントダウン5分前」 女性オペレーターの声が響く。
 「よう ジュンちゃん 相変わらず 巨乳から出る声 色ぽいぜー」 正面のモニター画面の1部に映し出された女性オペレーターにウインクし 口元で少しキザな笑みを浮かべる。
 女性オペレーターの名前はジュンコ まだ大人の女になりきれない どこか幼さを残す可愛い顔と、アンバランスの豊かな巨乳を持つ美女。
 フォッカー少佐からは、その点を いつもからかわれていた。
 ちょっと仕草など妙に生々しく、周囲に過剰と思える程の独特の豊潤なフェロモン(色香)を撒き散らしている事を 本人は、気づいているのか? 気づいているからこそその事を引いているのか? 本人しか解からない微妙な心理。
 「少佐 こう言う時は、真面目にやって下さい」 少しむくれる。 だが顔は、少し恥ずかしそうにためらいがちに赤面している。
 余りフォッカー少佐の顔を直視していない。
 実は、フォッカー少佐に、甘い恋心、興味を抱いているのだが、悟られぬよう演技しているのが、バレバレ。
 プイと顔を横にそむける。 その瞬間 軍の制服から異常に盛り上がった 豊かな まるで巨大なマスメロンのような2つの胸の膨らみが大きく揺れる。
 フォッカー少佐の顔が、にやける。
 「いつ見てもいい眺めだぜー」 だれにも聞かれない様な小さな声でつぶやく。
 実は、ジュンコ見たいな どこか幼さを残す可愛い顔と、アンバランスの豊かな巨乳を持つ美女が、好みであった。
 「成功したら 必ずパーティに出席しろよ」 口元を少しにやけながら言う。
 「嫌です」 はっきりと、拒絶するジュンコ・・・ だが態度は、少しモジモジしている。
 「こりゃー 上官の命令が聞けんのか!!」 怒りの声とは裏腹に目が笑っている。
 「プライベートの命令は無視します」 ジュンコは、そっぽを向いた 同時に豊な巨乳が揺れる。
 両手を少し上げ フォッカー少佐は、呆れたポーズを取る。 だが顔はにやけている。
 相手のジュンコは、数少ない まだ落とせない女の1人。 それも本命。
 「カウントダウン3分前」 怒った表情を浮かべるジュンコの事務的 情け容赦のない声が響く。
 成功後 必ず出席させたっぷりとベッドの上で、可愛がってやるぜー・・・ ベッドの上 ジュンコと甘い濃密な一夜を思いつつフォッカー少佐は、全てのスイッチを入れ 計器の最終確認を行う。
 オールグリーン 何ら問題点もない。
 エンジン音が 1段と高く鳴り響き 機体全体に電磁場を利用したバリヤーに包まれる。
 虚無の特殊なエネルギーを生み出す為の動力源のエネルギーチャージが 目標の100%を超える。
 ワープインポイントと、ワープアウトポイントの座標を確認する。
 ワープインポイントは、太陽を周回する地球軌道上から ワープアウトポイントの木星軌道上である。
 ワープアウトポイントでは、宇宙軍の艦隊が待っている。 この実験の結果を見守る為に。
 「カウントダウン2分前」
 フォッカー少佐は、アクセルペダルを踏み機体をゆっくり前進 母艦である宇宙空母から目標ポイントへ移動させる。
 正面のフロントウインドウからは、漆黒の闇の世界に光輝く無数の小さな光点 星々の世界が広がる。
 いつ見ても感動的な美しさであった。
 一瞬 星々の美しさに心が奪われてしまう。
 そうフォッカー少佐の子供の頃からの夢。
 無限に広大に広がる宇宙 この果てしなく広がる宇宙を旅してみたい。
 色々な星を探検し そこには、まだ存在が確認されていないEBE';s(Extra-terrestrial Biological Entities イーバーズ=地球圏外知的生命体)とのファーストコンタクト。
 果たして、どんな容姿しているのか? 決して、人型(ヒューマノイドタイプ)とは限らない・・・など想像でしか考えられない未知の世界への冒険。
 その夢を実現する為に、宇宙軍へ志願した。
 「カウントダウン60秒前」 感動的な気持ちを打ち消すように、情け容赦のない事務的声が響く かなりご機嫌斜めの様子。
 フォッカー少佐は、虚無の特殊なエネルギーを生み出す為の動力源のスイッチを押す。
 バリヤーに包まれた機体の前方の時空間の1部が、突然真円状に揺らぎ始め  その外縁部は、周囲の漆黒の闇の宇宙空間とは異なる 揺らいだ状態の虹色の極彩色へと変化を始める。
 発生した真円状の外縁部 揺らいだ状態の虹色の極彩色の中心には、宇宙空間の漆黒の闇とは、明らかに異なる 全ての色すら存在しない無限の何も存在しないように思われる領域。
 そう この領域こそ これから突入する3次元ワームホール。
 理論上 ブラックホールの中心部に存在する可能性を指摘されている重力の特異点 アインシュタイン博士の一般相対性理論の解とも呼ばれる方程式で表すことの出来る。
 
 (計算上無限大となり全ての物理法則が成立しなくなる)の先にあると考えられているワームホールと同一の領域 全ての物質は、計算上無限大となり 高いまだ何も確定されていない たえず揺らいでいるエネルギーだけの状態なるのでは? と考えもある。
 この状態こそ 全ての多重宇宙を創生する 量子論の “無” の状態なのかも知れない。
 もしくは、物質を含む全ての最小単位である これ以上分割出来ないとされる量子状態までに転換するのかも知れない。
 重力の特異点の先にあるワームホールを通過する事により 我々の住む宇宙と繋がり別の物理法則の確定した多重宇宙の別宇宙への移動・・・ もしくは、ブラックホールとは、反転 対称的な存在 理論上存在すると考えられている ホワイトホールが出口だと考えもある。
 もしくは、新たな宇宙を誕生させる 真空エネルギーが高い状態にある素粒子より更に極小のインフレーション前の超ミクロ宇宙・・・など色々な可能性が指摘されている。
 ワームホール突入後 想定されるあらゆる可能性から人体、機体を 電磁場を利用したシールド、バリヤーで守る。
 だが、不安は消えない。
 計測されているデータを表示しているモニター画面を見る。
 数値が目まぐるしく変化し 数値化出来ない。
 科学者は、これを “虚無” と呼んでいる。
 常にゆらぎ 何も確定されていない状態。
 このまま突入すれば、全て構成している素粒子をも崩壊し、虚無に戻る恐怖が過る。
 虚無の領域であるワームホールに突入の歳 全ての物質は、1度量子状態に転換され 古典的には乗り越える事の出来ないポテンシャル・エネルギーの障壁を 量子効果すなわち、時間とエネルギーとの不確定性原理により乗り越えてしまう(透過してしまう)現象 量子トンネル効果により 目的地までワープし 目的地で、再構築されているのでは・・・・と言う疑念があった。
 まだこの辺については、良く解っておらず、もし量子状態まで、転換 その後 再構築の歳 果たして自分が、自分なのか?
 全く異なる自分になってしまうのか?
 その容姿? 人間とは、全く異なる想像も出来ない まさに、モンスター(怪物)の様な容姿に変化し元の姿に戻れなくなってしまうのか・・・・?
 色々な不安が過る。
 それを防ぐ為の電磁場シールドを利用したバリヤーなのだが、不安は、消えない。
 だが、何も起きず、無事成功後 約策されている 多数の美女との成功祝賀パーティ。
 2次会の 多数の美女とのベッドの上で過す 人生の最も有意義な時間。
 そうまだ落とせない、オペレーターのジュンコも その1人で本命 成功後 パーティの後の甘い一夜。
 この男 その為に生きている。
 人類の命運、未来など この男には、全く関係ない。
 例え、数年後・・・ いや明日 人類が滅亡しようと、知ったことではない。
 死ぬ時は、多数の美女とともに過すベッドの上で、腹上死と、決めている。
 嫌な雑念を脳裏から振り払い 全てを集中する。
 多数の美女と、甘い蜜の浸る夜の為に・・・
 「カウントダウン30秒前」
 操縦桿を握るフォッカー少佐の両手に大量の汗が滲み出る。
 「10秒前 9,8・・・3.2.1.GO!!」
 GOのサインと共に、「行くぜ ベビー!!」 フォッカー少佐は、全ての雑念、恐怖を振り払うよう雄叫びを上げ アクセルペダルを思い切り踏み 操縦桿を引いた 機体は、猛スピードで加速 同時に、バリヤーで包まれた機体は、前方に発生していた虹色の極彩色の中心 漆黒の闇すらない存在しない虚無の領域 3次元ワームホールへ向かい吸い込まれるように消える。 機体が吸い込まれると同時に、人工的に発生させていたワームホールの入口 発生していた真円状の外縁部 揺らいだ状態の虹色の極彩色も その中心部 宇宙空間の漆黒の闇とは、明らかに異なる 全ての色すら存在しない無限の何も存在しないように思われる虚無の領域も消える。
 人類の命運を掛けた実験が開始された。
 結果は・・・
 はたして、人類に未来はあるのか・・・?
 虚無の領域 3次元ワームホールに突入した フォッカー少佐の運命は?
 その答えは、ワープアウトポイントの木星軌道上で待機し この実験を見守る宇宙軍の艦隊からもたらされるはず・・・


                                                            THE END


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